研究課題/領域番号 |
17K18935
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小紫 公也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90242825)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 航空宇宙工学 / エネルギー全般 / プラズマ / レーザー |
研究実績の概要 |
月面における長期的活動および基地建設を可能にするために、月資源として豊富に存在する酸化アルミニウム(アルミナ)を還元し、資材として利用可能なアルミニウムと生命活動に不可欠な酸素に分離することを考える。この金属還元技術は、炭素などの大量の還元物質を用いた従来の金属精錬手法とは全く異なった先進のレーザー風洞技術を応用したものであり、ここではその収量向上を目指した学術的研究を行う。 これまで取り組んでいたアルミナ微粒子をレーザー支持プラズマによって還元する方法では、アルミナの供給量に対するアルミニウム発生量(モル還元率)が非常に少なかったので、この方法に代わって、アルミナ焼結体のアブレーションを利用して、モル還元率を大幅に向上させることを試みた.真空チャンバー内に設置したアルミナ焼結体表面にレーザーを直接集光し、アブレーションに必要な3,500 K程度まで加熱し、同時に真空チャンバー内に供給されるアルゴンガス流量を調整することで雰囲気圧を制御した. その結果、アブレーションプルームが焼結体の表面から定常的に発生し、アブレーションプルームの発光分スペクトルからAlの還元を確認した.このときアブレーションプルーム内の平衡温度は、雰囲気圧及びレーザー強度に応じて3100 Kから3700 Kと変化し、モル還元率及びエネルギー効率の最大値は雰囲気圧1.0 atm, レーザー強度2.6 GW/m2においてそれぞれ16.2%, 0.458%となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.アルゴンガス雰囲気下においてアルミナ焼結体をレーザーにより加熱することで、アブレーションプルームが焼結体の表面から定常的に生じた.アブレーション速度は雰囲気圧に依存しなかったが、レーザー強度に対して単調増加に変化し、レーザー強度2.6 GW/m2において8.9 kg/s m2であった. 2.アブレーションプルームの発光スペクトル解析からアルミニウム原子の線スペクトルが観測され、アルミナの還元が確認された.アブレーションプルームの平衡温度は雰囲気圧及びレーザー強度に対して3,100~3,700 Kの範囲で単調増加に変化した. 3.モル還元率は雰囲気圧及びエネルギー強度に対して単調増加し、1 atm, 2.6 GW/m2において16%であった.雰囲気圧、およびレーザー強度を高めることで、さらに高い還元率が期待できる. 4.エネルギー効率は、レーザー強度に対しては変化が単調でなく、最大効率は1 atm, 2.6 GW/m2において0.458%であった.これはエネルギー強度が高いほど、熱損失が増大することによるものだと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
アブレーション物質回収物のEDX分析の結果、黒色の物質が酸素欠陥型のアルミナであり、銀色の物質が金属アルミニウムであることが判明したが、これらの生成物の違いは高レーザー強度・低Ar雰囲気圧と低レーザー強度・高Ar雰囲気圧とでレーザーアブレーション時に起きる現象が異なることが原因であると考えている。まだ生成物の収量にばらつきが見られるので、今後確実な実験条件の再現と付着物質の同定が必要である。 アブレーション時に光化学反応は起きておらず、レーザーは熱供給源としてアルミナの相変化に必要な熱を供給する役割のみを持つと推測している。液体アルミナの沸騰の仕方の違いで回収板付着物の様子の違いの説明を試みる。 将来的に生成アルミニウムの回収系を検討する際、AlとOが気相で混在する限り再結合は冷却されれば常に起きることを念頭に置かなくてはならない。冷却されないうちに気相のこれらを分離するという方針も考えている。
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