本研究は、水中音波観測システムの開発・展開の可能性を睨みながら、海底における地震波記録ならびに海中における音波記録を用いて、水中音波の伝搬する過程を調査するものである。今年度は、水中音波観測システムの一つとして、海底に敷設された既設光ファーバーケーブルを利用し、分散型音響センシングによる振動計測実験および評価・解析を実施した。光ファイバー自体をセンサーとして利用する分散型音響センシングによる計測では、百キロメートル程度にわたる光ファーバーにそって、最短数メートル間隔の高空間密度、数キロヘルツの時間間隔で振動データを取得すること可能である。1996年に敷設し、現在稼働中である東京大学地震研究所の三陸沖海底地震津波観測ケーブルシステム内の予備光ファイバーを利用して得られた分散型音響センシングデータの解析によると、1Hz以上の高周波帯域におけるノイズレベルは、ハイノイズレベルモデルより低く、サーボ型加速度計とほぼ同等であった。また、平面波近似を用いたシステム内の加速度計記録との比較から、音響センシングデータは地震計データと高い相関を持つことが明らかになった。また、高空間密度である音響センシングデータを用いて堆積層構造推定にも適用可能であることが示された。一方、津波相当などの長周期帯については、ノイズレベルが高く、利用のためには今後ノイズ低減のための技術開発が不可欠である。また、低頻度現象である津波そのものについては、これまでにデータを取得することはできておらず、計測期間の長期化、あるいは連続運用による評価が必要である。
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