研究課題/領域番号 |
17K18952
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
乾口 雅弘 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (60193570)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 階層的意思決定法(AHP) / 区間重要度 / 選好関係 / 正規性 / Dempster-Shafer理論 / UTA / 区間効用モデル / 順序回帰 |
研究実績の概要 |
平成29年度は,次の三つについて研究し成果を得た. (1) 通常の一対比較行列の下で従来法より妥当な区間重要度ベクトルを導く推定法として,従来の推定問題を緩和し準最適解集合で区間重要度を推定する方法を提案し,数値実験によりその優位性を示した.また,妥当な緩和度の定め方を提案し学術雑誌に掲載した.一方,最大緩和最小範囲法や区間推移閉包法などのパラメータがない推定法も提案した.数値実験により,緩和度を適切に設定した緩和法が最も良いが,最大緩和最小範囲法も良好な推定ができることを示した.区間重要度の中心値を通常のAHPで推定する方法や,これらの推定法の一対比較情報の増加に伴った推定精度向上に関する考察を始めた. (2) 整合した区間一対比較行列に対応する正規な区間重要度ベクトルが一意に定まらないことは,一対比較行列だけでは正規な区間重要度ベクトルが一意に定まらないことを意味する.そこで,正規性が自然に定められ,不精密な確率が表されるDempster-Shafer理論を用いて,通常の一対比較行列から確率分布に対応する基本確率割当を推定する問題を考え,正規な区間重要度ベクトルを推定する問題との関係を考究した.一対比較行列だけでは,基本確率割当も正規な区間重要度ベクトルも一意に定められないので,与えられた一対比較行列からの乖離度が等しい解集合を求める問題とした.その結果,中心の総和が1以上という条件を入れた正規な区間重要度ベクトルの推定問題が,基本確率割当の推定問題と等価となることを示した. (3) 区間UTA法に関しては,代替案間の支配関係の成立確率を数値実験により推定したところ,以前に提案した推定法による区間効用関数モデルではうまく整合しない部分があることから,モデル同定の評価関数を再検討した.新たな評価関数を用いれば,より妥当な区間効用モデルが求められることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AHPに関する(1),(2)の研究は,計画以上に進展している.区間重要度の推定法に関する数値実験が,最初に作成したプログラム等を修正して利用することにより思っていた以上に速く実行できた.そのため,中心値を通常のAHPを用いて推定した場合との比較や,より多くの一対比較情報が得られた方が各推定法による推定精度が向上するか否かの収束性の考察も着手できた.提案した推定法が収束性をもたないことも発見し,収束性を改善した推定法も考案できつつある.一対比較行列に対応する正規な区間重要度ベクトルが一意でない問題に関しては,正規性の問題と捉え,正規性が自然に定められるDempster-Shafer理論との比較し,非常に興味深い成果を得た.すなわち,区間の中心値の総和が1以上という条件を加えることで,区間一対比較行列が等しくなる正規な区間重要度ベクトルの集合とDempster-Shafer理論における基本確率割当の集合が等価になるという性質を示した.一方で,区間の中心の総和が1に満たない場合は正規な区間重要度ベクトルをどのように意味づければ良いかという難しい課題が残っている.(3)のUTAの研究では,確信度つき選好情報を扱うより先に,以前に提案した手法のより根本的な問題点が発覚したので,これを修正する方法を議論した.原因が明らかでなく比較的扱いにくいこの問題も完全に選好情報が不明な場合の解に近づくように評価関数を修正することにより,改善できた.以上から、本研究課題は順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 通常の一対比較行列の下での正規な区間重要度の推定法に関する研究では,区間の中心を通常のAHPで求める各手法や選好情報が増加した場合の推定結果の収束性を改善した方法を取り上げる.非一意性を鑑みて一対比較行列からの乖離度が等しい解集合で正規な区間重要度ベクトルを推定する方法に修正し,数値実験により性能を評価する.また,区間の中心の総和が1以上という条件を加えた,Dempster-Shafer理論に対応する場合も考察する. (2) 正規な区間重要度ベクトルの非一意性に関する研究では,Dempster-Shafer理論では解釈できなかった,区間の中心の総和が1以下の場合の考察を行う.同じ整合した区間一対比較行列をもつ区間の中心の総和が1以上である場合と,それぞれ対応する正規な重要度ベクトルの集合を比較することから始める.また,一般の区間ベクトルが正規化できると限らない問題についても難しい問題であるが,どのような視点で捉えるかなど,正規化が必要か否かの根本的な課題から着手する. (3) UTA法に関しては,H29年度に修正した手法を用いて,選好情報に確信度が与えられた場合に確信度の相違に対応した入れ子状の区間効用関数モデルを定める方法を提案し,その有用性を議論する.また,属性間の加法的独立性が仮定されてきたが,同定問題の線形性を損なわない範囲で,加法独立性を緩めた非線形モデルを同定することを考える.ここでは,属性値空間をファジィ分割し,各分割区分で異なった加法的効用関数をもつモデルを検討することによりこの実現をめざす. (4) (1)で求められた区間重要度ベクトルに基づけば安全な評価ができるものの,代替案の前順序しか得られない.ここでは,僅かに負ける可能性を許容したり,考える区間をある程度縮小することにより,可能な弱順序を求める方法を提案し,決定支援に役立てる.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室のデスクトップパソコンに余裕が生じ,これを用いることができたため,本年度のデスクトップパソコンの購入を控えたこと,論文投稿した国際誌に無料の英文校閲サービスがあり,英文校正料が不要になったこと,国際会議出張中の宿泊費を開催者が負担したこと などにより次年度の使用額が生じた.
次年度に,類似した研究課題の研究者が集う国際会議が海外で多く開催されるので,これらに出席し,本年度に得られた成果を発表し意見交換するとともに,国内では得られ難い最新の成果などの情報を収集し,研究のさらなるレベルアップを図る計画である.
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