研究課題/領域番号 |
17K18962
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
長 郁夫 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (10328560)
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研究分担者 |
横田 俊之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究グループ長 (40358312)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 微動アレイ探査 / 表面波探査 / ノイズ補正 / 表層地質 / 浅部速度構造 / 平均S波速度 |
研究実績の概要 |
極小アレイ(Miniature Microtremor Array, MMA)を用いた微動探査による深さ1m~10m程度の精度を評価することを目的として、平成29年度は実データを用いた精度評価として、過去の表面波探査(Surface Wave Method, SW)地点と厳密に同じ位置でMMAを実施することを計画した。その際、アレイを構成する地震計のタイプ(サーボ型と動コイル型)による解析精度の相違も評価することとした。さらに、精度が低い場合において理論の開発による対応可能性を探るとした。 計画はほぼ滞りなく実施できた。さらに、予定外の研究まで追加的に実施できた。具体的には、茨城県潮来市の人工造成地盤におけるSW実施地点でMMA観測を実施し、深さ数m以下の浅部に対応する周波数の位相速度分散曲線をSWで得られた結果と比較した。サーボ型加速度計(JU410)を使ったケースと動コイル型ジオフォン(GS11D)をそれぞれ用いた。その結果、2つの測線に沿う複数地点でMMAによる位相速度は10Hz以上の高周波数帯域でSWによる位相速度に対して過大評価することが分かった。10-20Hzでは周波数帯域とともに徐々に乖離が大きくなり,20Hzで平均20%過大評価した。JU410による乖離はGS11Dよりも大きかった。1/3波長則で概算すると、浅い側の解析限界はGS11Dで0.7~1m,JU410で2~2.5mとなると考えられる。ただし、分散曲線の形状から本サイトでは高次モードが卓越することが明らかとなった。その結果、位相速度の直接比較ではMMAの精度を厳密には評価し難く、速度構造の推定結果を互いに比較するのがより適切と考えられた。そこで、当初計画外の速度構造推定に関する研究も急遽取り入れることとし、その結果、一定の成果が得られた。詳細は「現在までの進捗状況」に記す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、SWによる位相速度との比較によりMMAの精度を検証し、平成29年度に口頭発表、平成17年度に学術誌投稿という流れを想定していた。実際、位相速度分散曲線の直接比較実験は順調に進み、学会で口頭発表した。平成30年度には学術誌投稿のため最終的な詰め計画中である。一方、本研究の実験結果により、MMAとSWでは位相速度が異なるモードで構成されるため直接比較では厳密な精度評価が難しいという想定外の問題が生じた。そこで、本研究では2つのアプローチによる対処を考え、さらに、実データ及び模擬データを用いて実験解析を実施し、さらに、学会での口頭発表及び学術誌発表までこぎつけることができた。 上述の「2つのアプローチ」のうちの1つ目は、安全サイドでの簡易アプローチである。すなわち、JU410で極小アレイを構成する場合に限っては、数Hzから20Hzまでの周波数帯域を用いれば安全に適切な構造を推定できるはずであるので、その範囲で(平均的な)速度構造を推定する手段として、10m程度の深さレンジごとに平均S波速度を推定する方法を提案した。このアプローチを2016年熊本地震直後に実施した微動アレイ観測で得られたデータに適用し、学術論文にとりまとめた。2つ目のアプローチは、、より一般的で厳密だが、やや複雑な方法である。すなわち、情報量規準に基づいて位相速度分散曲線を構成するモードおよび層構造を客観的に解釈する逆解析法を提案した。この方法により、MMAとSWでそれぞれ得られる速度構造モデルの客観的な比較が可能となる。詳しい解析は平成30年度に実施する予定とし、平成29年度はその理論的枠組みの提案及びごく簡単なモデルを用いた数値実験を学術論文としてとりまとめた。 以上より、本研究課題の進捗として(1)の区分を適用できると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画通り、平成30年度は別サイトでSWとMMAを比較する。そして2017年度に開発した理論及び実験的検討結果の検証を行い、評価を確定する。そのために、(i) 潮来市内の別サイトでのSWおよびMMAのデータの取り纏めを行う。また、(ii)研究計画に記載した「精度が低い場合、理論開発による改善の余地を検討する」を実施する。 (iii) 「現在までの進捗状況」に記載した想定外の問題へ対処の2つ目について、観測データを用い、現実的な構造に対する適用性を含む詳細な評価を実施する。これらを総合して、(iv)「評価を確定」する。特に、(ii), (iii), (iv)については個別に口頭発表の上、取り纏め内容を勘案して学術雑誌投稿を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度計画の1つに、「動コイル型ジオフォンの適用性評価」がある。そこで、利用するジオフォンをアスファルト面に設置するために、ジオフォン用台座を試作した。所内の試作部に発注したが、その際、担当者が当初提出した金額は2017年度の助成金を使い切るのに適した額(約3万円)であった。しかし、試作の経緯で問題が生じたため材料加工に足が出た旨を試作後に報告され、結果として製作費は53,173円となった。同額を支払うためにはその時点での助成金の残金が不足していたため、先方と協議の上2017年度の支払いを遅らせて2018年度の助成金から支出することとした。
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