研究課題/領域番号 |
17K18967
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 英志 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (90312652)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | 鉄ナノ粒子 / 酸化抑制 / 水溶液中合成 / 低温焼結材料 |
研究実績の概要 |
産業界で最も利用されている金属元素である鉄のナノ材料が出来れば、その高い表面エネルギーを応用し、融点より十分低い低温で構造材(ビルや橋、工場、車など)を接合することが可能なため、産業構造を変えるような材料となりうる。しかしながら、鉄(Fe)のナノ粒子は実用化できていない。これは、Feは酸化しやすい、つまり還元析出させると表面酸化物層が形成し容易に内部まで酸化される、ためである。一方、申請者らは計算科学と機器分析を用いて原料溶液中の錯形成反応と還元析出反応速度を制御することで、鉄と同様に容易に酸化する銅ナノ粒子などを、水溶液中で表面酸化物無しで合成することに成功している。本手法を応用し、鉄ナノ粒子が合成可能となれば、産業界で広範囲に使用されている鉄製の構造用材料を、金属鉄の融点より十分低い温度(200-300℃程度)で接合可能な、応用範囲の広い新規材料となると予想できる。そこで本研究では、水溶液中での鉄錯体の状態を計算科学で制御すると共に、析出表面の還元状態を錯形成で維持することで、表面酸化物層の無い金属鉄ナノ粒子の水溶液中合成法の開発に挑戦する。更に、合成した鉄ナノ粒子の高い表面エネルギーを利用し、低温焼結で構造材(金属間接合材料や欠陥部位の補修・充填剤など)として応用することを試みた。 水溶液中における鉄錯体の存在状態のpH依存性を、錯生成定数を用いた計算と機器分析を用いて制御することで、水酸化物を形成することなく水溶液中で安定な鉄錯体を形成可能であることを明らかとした。更に、その鉄錯体の還元反応速度を錯生成定数を介して電位により制御可能であることを明らかとし、還元析出可能な溶液条件を特定することで、酸化被膜の形成を抑制した鉄ナノ粒子を合成可能であることを明らかとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属鉄を水溶液中で合成するための最大の障害は(水)酸化物形成にある。本研究では、金属錯体構造を厳密に制御することで、水溶液中における水酸化鉄形成を抑止可能であることと、その様な鉄錯体であっても十分に還元可能な状態を達成するために必要な条件(溶液条件及び錯生成定数)を明らかにした。その上で、実際に還元反応を進行させることで水溶液中で金属鉄ナノ粒子を合成可能であること、を達成している。合成したナノ粒子の焼結温度は、鉄の融点の1/3程度の450℃であることも明らかとしている。 この様に、本研究は順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
上記より、既に水溶液中で鉄ナノ粒子を合成することは達成している。本材料を工業材料として展開するためには、低温焼結特性を発現させるための条件の確認と、ペースト材料等への展開手法の開発が必要となることから、2018年度はこれらの課題に取り組む予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
申請者所属研究室の機器を積極的に活用し、同時に研究進展手順の最適化を行うことで、当初予定していたよりも効率的に物品費を抑制することが出来たため、次年度使用額が発生した。2018年度に、更に効率的に研究を進展させるために、当初予定額に加算して使用させて頂く。
|