現在、冠動脈疾患治療にはステントと呼ばれる網目状デバイスが用いられ、患部が完治後にも半永久的に留置されるため、再狭窄や血栓症を引き起こす可能性が問題で、医学界から生体吸収性ステントの開発が強く望まれている。特にMg合金が次世代ステント材料として期待され、欧米を中心に数多くの研究がなされているが、ステントに要求される材料特性を満たす合金はいまだ開発されていないのが現状である。また、体内での溶解速度を調整するために、ステント表面にはコーティングが施されているが、ステントの複雑形状に薄く均一に塗布することは非常に困難である。 そこで、この研究では自己形成不働態膜により生体内分解速度が調整可能な超弾性Mg合金ステントを提案する。提案するMg-Sc系合金は独自に開発したBCC相を利用する高強度・高延性合金で、ステントに要求される機械的特性を十分に満たしている。さらに、Mg系合金で初めて超弾性能を持った合金である。また、BCC単相化するために、大気中で700℃まで加熱する。その際に試料表面に非常に緻密で薄く均一な酸化膜が形成され、それ以上は内部が酸化されない不働態膜になることを確認している。この酸化膜が擬似体液中でも不働態膜として働けば、溶解速度を調整できる可能性がある。よって、本研究では当合金の生体分解性ステントとしての有用性の検討を目的とする。 超弾性能は現在の組成では低温でしか示さず、体温付近で超弾性を生じさせるためにスカンジウム濃度の最適化および第三元素添加による材料設計を行うことを中心に、同合金の擬似体液中における溶出速度と表面酸化被膜の関係について調査した。また、スカンジウムの生体適合性に関する研究は過去にないので、本研究で初めて細胞毒性評価により調査した。
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