昨年度までに、ホウ素をドーピングしたシリコンウィスカーやナノワイヤーの合成法を確立した。本研究で目的とする不織布状のナノワイヤーは、ナノサイズの繊維集合体で、熱伝導率の計測を行う標準測定法が確立していない。測定端子とサンプル間の接触抵抗を避けるため非接触の測定法を考案し、その測定精度の検証を行った。薄膜基板をモデルサンプルとし、熱伝導率が低い代表としてポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリプロピレン(PP)のポリマー基板を、さらにそれらよりも10倍程度高い熱伝導率を持つ物質の代表としてガラス板をそれぞれ用いた。サンプルの一部を加熱源に接触させ、加熱源を周期加熱した。加熱源からの距離と温度変化(周期)をサーモグラフィーで測定し基礎データとした。このデータに対し、一次元の熱伝導方程式をフィッティングをさせ、熱伝導率を算出した。その結果、上記の標準サンプルの熱伝導率計測が可能であること、標準サンプルに対しは10%~70%程度の測定誤差が生じる可能性があることを明らかにした。シリコンナノワイヤー膜に対しても同様の測定を行い、熱伝導率の算出が可能なデータを取得できた。ただし、モデルに用いた薄膜サンプルに比べ、不織布状のナノワイヤー膜では、周辺気流の状態がサンプル-空気間の熱伝達係数に大きく影響を与え、測定精度の向上にはもう一段の工夫が必要であることがわかった。ドーピングを施したナノワイヤー膜の作製とその熱伝導率測定を可能にする測定系の両方を確立することができ、今後研究を進展させる足場を確立した。
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