研究実績の概要 |
金属の切削加工は、もの作りにおける重要な工程の1つであり、切削工具には一般に硬質 薄膜がコーティングされている。しかし難削材の出現や、切削油を使わない(低環境負荷)切削のために、コーティング用材料には50GPa以上の高硬度が要求されている。これまでに既存物質であるCrNに対して構成元素を他元素に置き 換えて、種々の新物質群を合成してきた。すなわち1多結晶Cr(N,O)薄膜およびエピタキシャル成長CrO薄膜、2エピタキシャル成長(Cr,Si)N薄膜である。それぞれの高硬度化の起因は、1:原子配列の部分規則化(積層不正)、2:CrN中に内在する6配位SiNであり、メカニズムは全く異なる。 本研究では、1と2を組み合わせ、超高硬度を有する3新物質(Cr,Si)(N,O)を合成する。レーザーアブレーション法によって薄膜を合成した。手法は、1E-6Pa以下に真空引きした超高真空チャンバー内で、O2+Nラジカルを供給し、(Cr+Si)回転ターゲットに対して、YAGレーザーの3倍波レーザー(355nm)を照射することにより、Cr-Si-N-Oの4元系薄膜を作製した。基板は、格子定数が近いMgOを選択した。 作製した薄膜をX線回折で評価したところ、MgO基板上にエピタキシャル成長していることが確認できた。また4元素(Cr, Si, N, O)が含まれた単相であることも明らかになった。このことから、SiNがCrN中で6配位で存在していることが明らかになった。透過型電子顕微鏡の観察用試料を集束イオンビーム加工機で作製した。制限視野電子線回折では特徴的な回折図形が得られた。この図形は、Cr(N,O)薄膜で見られた回折図形と全く同じであることから、原子配列の部分規則化(積層不正)が発生していることが明らかになった。
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