研究課題/領域番号 |
17K18982
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松永 克志 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20334310)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 電子状態計算 |
研究実績の概要 |
ハイドロキシアパタイト(HAP)を始めとしたバイオセラミックスは、生体代替材料として重要であり、生体親和性のさらなる向上が求めらている。HAP材料の高性能化には、特性発現の起源となる水溶液と結晶界面におけるイオン・分子の挙動を解明することが必要不可欠である。本研究では、第一原理計算をベースとした高精度計算科学を用い、水溶液/HAP界面での安定原子配列や点欠陥形成機構などを電子・原子レベルから解明することを目的とする。 本年度研究では、水溶液溶媒効果を考慮した電子状態計算に基づいて、水溶液/HAP界面の安定原子配列を求めた。HAPの安定表面の一つである(1010)面を中心として検討を行った。まず、真空下における同表面構造は、CaイオンとPO4イオンからなる終端面で構成されるとき最も安定であった。水溶液溶媒効果を考慮した場合、真空の場合に比べて、終端面にあるCaイオンの存在位置が大きく変化し、最安定表面構造が形成されていることが分かった。表面に隣接するH2O分子による静電的ポテンシャル場によって、Caイオンの安定位置が大きく変化することを意味するものと考えられる。また、(0001)の場合、(1010)面ほど大きなイオン配置の変化は見られなかったが、表面に垂直な方向を向いたOH基の安定位置に比較的大きな変化が見られた。 また、界面近傍でのMg2+置換を検討したところ、バルク中への置換固溶と比較して、界面Caサイトでの置換エネルギーが著しく低かった。バルク中と異なり、界面近傍は配位数の欠損や水溶媒の効果が働くため、イオン半径が小さなMg2+であっても容易に置換されるのではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水溶液溶媒効果による異なる表面方位での最安定界面原子配置を求めることができた。また、イオン置換についても検討を一部行い、界面での置換吸着の可能性などについても検討ができた。したがって、当初の計画通り、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に検討した界面モデルをもとにして、さまざまな陽イオンの置換固溶の難易とそのメカニズムを検討していく。また、HAP表面でのタンパク質や分子吸着は骨形成の重要なプロセスであることが知られている。このとき、HAP表面の荷電状態が重要な因子であることが指摘されている。今後は、陽イオン置換による界面荷電状態の検討も行い、分子吸着を促進する可能性やそのメカニズムについても検討を進めていく予定にしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本予算で第一原理計算を行うための並列計算機(クラスタエレメント)を購入予定であったが、当初よりかなり安価な仕様で購入することができたため。
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