ハイドロキシアパタイト(HAP)を始めとしたバイオセラミックスは、生体代替材料として重要であり、生体親和性のさらなる向上が求めらている。HAP材料の高性能化には、特性発現の起源となる水溶液と結晶界面におけるイオン・分子の挙動を解明することが必要不可欠である。本研究では、第一原理計算をベースとした高精度計算科学を用い、水溶液/HAP界面での安定原子配列や点欠陥形成機構などを電子・原子レベルから解明することを目的とする。 本年度研究では、昨年度研究の継続として、水溶液溶媒効果を考慮した電子状態計算に基づいて、水溶液/HAP界面の安定原子配列を求めた。HAPの安定表面の一つである(1010)面を主な対象とし、Zn2+置換の安定性や局所構造を検討した。Zn2+は、バルク中への置換固溶の場合と比較して、界面近傍で置換エネルギーが著しく低かった。しかし、最安定な置換Ca2+サイトは最表面ではなく、1原子層バルク側に存在していた。この結果は、昨年度検討した、最表面Ca2+サイトで最安定となるMg2+置換固溶の場合と大きく異なっていた。Mg2+とZn2+のイオン半径は同程度の大きさであるが、周辺酸素イオンとの相互作用の違いが、このような最安定サイトの違いの起源であると考えられる。 また、表面の荷電状態に関する検討も行った。水溶液と界面を形成する(1010)面の安定構造について、表面化学組成の影響を調べるため、化学量論組成、Ca rich組成、P rich組成の3種類の表面の表面エネルギーを計算した。その結果、水溶液と接する(1010)面では、化学量論組成やP rich組成の場合より、Ca rich組成の表面がより安定であった。よって、HAP結晶の(1010)面で起こる分子吸着は、分子中で負電荷をもつ化学種との相互作用により引き起こされると考えられる。
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