転位は、そのコア領域において局所的に大きなひずみを有しており、さらにはしばしば電気的中性条件の局所的な崩れを伴うため、バルクと異なる特異な電子構造を形成する。その結果、半導体材料において、転位は材料特性に大きな影響を与えることが知られている。本研究では、半導体における転位の特性を系統的に調査するため、双結晶法を用いて所定の転位構造を作製し、その特性の評価を試みるとともに、その結果に基づいた半導体の転位機能開拓に挑戦している。 H30年度では、昨年度ZnOの双結晶研究で得られた成果を元に、主としてII-VI型化合物半導体の転位の機能について研究を行った。化合物半導体の転位は、転位コア近傍の局所ひずみのため、バルクと比較してより小さなバンドギャップを有することが明らかとなった。このバンドギャップの低下は材料中に存在する電子のみならず材料を通過する光にも影響を与えると考えられた。そこで、変形により、化合物半導体に多数の転位を導入したところ、バンドギャップの低下のため、光吸収係数が大きく変化することが分かった。 バンドギャップは半導体の基本的な物性の1つであり、半導体材料を利用する上で極めて重要な指標である。したがって、本研究で得られた転位によるバンドギャップ低下の研究結果は、今後の半導体分野の研究に大きな影響を与えるとともに、光吸収という転位の新たな機能を開拓した点で意義深いと考える。本研究成果を元に、半導体の転位機能のさらなる応用展開が期待される。
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