研究実績の概要 |
層状化合物であるMgB2は, 金属系では最高の超伝導転移温度39 Kをもち, 銅酸化物高温超伝導体に比べて加工性に富むなどの利点がある.超伝導特性改良の手段の一つとしてドーピングが挙げられる. しかし, MgB2へのドーピングは, その固溶域が狭くドープ量を増やせないという問題があり,安定相が得られる高温固相反応によるドーピングには限界がある.かたや,電池反応のように, 低温で準安定相が得られるソフト化学的な方法を用いれば, 母相の基本骨格を保ったまま層間のイオンを脱挿入することが期待できる. そこで, ソフト化学的手法によってMgB2の実質的な固溶域を拡張し,準安定相を用いた high-dopeを行うとともにその超伝導特性を評価するのが本研究である. 本年度は、MgB2の粉末試料と薄膜配向試料について実験した.まずMgB2粉末試料についてはMgB2からのMgの脱離,つまりホールのドーピングが可能であることが示唆されたものの,試料に酸化皮膜が存在し,その部位での導電性の低さのために目的の反応が困難であると結論した. そこで粉末試料の代わりに,酸化皮膜を抑制した導電性の高いMgB2薄膜配向試料を用いたところ,電気化学的なドーピングに成功し, かつ超伝導特性(臨界電流密度Jc)も評価できた.MgB2試料として, Si基板に対してMgB2結晶のc軸が垂直に配向した, 厚さ約200 nmの薄膜をドーピングに供した. 電気化学ドーピングを行うための電解液として, 3種類の有機系電解液を用意し,うち2種類はホールドープを,残る1種類はLiドープを試みた. その結果,Liドープの場合はNi保護膜が反応を阻害し, 残念ながら試料への異種元素ドーピングは起こらなかったのに対して、ホールドープの場合は,X線回折において新しいピークを確認し, MgB2の結晶構造が変化したと考えられる結果を得た.
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