研究課題/領域番号 |
17K18987
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
乾 晴行 京都大学, 工学研究科, 教授 (30213135)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | マルチモルフィズム / インターグロウス / マイクロピラー / ブロック構造 / 組み換え / OD(規則不規則)構造 / 水素吸蔵特性 / Ni-H電池 |
研究実績の概要 |
近年,Ni-H電池のRE(希土類)-Ni系負極材料はA2B7型(プロトタイプ:La2Ni7)であり,類似の構造を持つ2種類の物質が単位胞レベルで周期的に積層したブロック層(AB5およびA2B4ブロック)からなるインターグロウス(IG)構造をもつが,僅かな合金元素量の相違でブロック構造が全く異なるIG化合物が形成されることを見出した.特異なブロック構造を持つIG化合物の方が通常構造の化合物より優れた水素吸放出特性を示すことを発見するに至り,IG構造のブロック層の組み換えによりIG化合物の物性を大きく変え得るとの着想を得,可能な限り,異なる系の異なるブロック構造を有するIG化合物をSTEM原子直接観察,第一原理計算を駆使して,探索,発見し,ブロック組み換えを支配する因子,その支配因子により決定される組み換えブロック構造を解明し,その水素吸放出特性に及ぼすブロック組み換え効果を系統的に論じ,IG化合物のマルチモルフィズムと構造物性を明らかにすることを目的とする. 本年度はRE2Ni7型,RE5Ni19型化合物に集中して実験研究を行った(RE=La, Nd, Sm).ブロック組み換え構造の出現にはMgが優先占有することによる(RE,Mg)2Ni4ユニット層の収縮が重要な役割を果たしていると考えられ,Mg添加量だけでなく,REの原子半径やブロック構造の中のRENi5ユニット層の数も重要な変数である.Nd-Ni-Mg系およびSm-Ni-Mg系RE2Ni7型合金でブロック組み換えを伴うIG化合物が発見できた.RE5Ni19型合金でも何らかのブロック組み換えが起こるもののIG化合物としての相同定には至っていない.STEM内元素分析によりブロック組み換えブロックはわずかにMgを多く含むことが明らかとなった.また,STEM原子直接観察からIG化合物の結晶構造解析(空間群)に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初,IG化合物の発見はNd-Ni-Mg系RE2Ni7型合金だけに限られるかもしれないとの危惧があったが,Sm-Ni-Mg系RE2Ni7型合金でも見出され,Nd-Ni-Mg系およびSm-Ni-Mg系RE5Ni19型合金でも何らかのブロック組み換えが起こることが確かめられ,IG化合物のマルチモルフィズムも一般性を確かめることができた.RE2Ni7型合金でのブロック層の組み換えは,予想通りであったがRENi3型とRE5Ni19型ブロック層のインターグロウス構造であるが,RE5Ni19型合金では,予想できるRENi3型,RE2Ni7型,RE5Ni19型ブロック層に加えてRE3Ni11型ブロック層も含まれる場合が観察できており,RE2Ni7相とRE5Ni19相の組成の間に未知なる組成を持つ化合物が擬2元系で存在する可能性を大いに示唆するものである.また,ブロック相組み換えを伴うIG化合物については,可逆的に吸蔵・放出可能な水素量のサイクル変化に着目しつつ10サイクルまでの水素化特性の評価を行う予定であり.水素化でのユニット層レベルでの局所的な異方性弾性格子歪の蓄積と水素吸蔵特性の相関を得るべく,水素化その場X線回折による弾性歪評価ができるよう現有PCTの改造を行い,予備的な測定が行える状況にまで達している.
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今後の研究の推進方策 |
本年度はRE2Ni7型,RE5Ni19型化合物に集中して実験研究を行ったが,RE2Ni7型,RE5Ni19型化合物およびその中間組成化合物(例えばRE2Ni7とRE5Ni19の組み合わせブロック構造を持つRE3Ni11型化合物で等Ni組成ラインに沿って種々のMg量を持つ試料)の実験も開始しており,順次,IG化合物のマルチモルフィズムが検証できる状況にある.実験的に安定に存在するブロック組み換えIG化合物が複数検証できているため,計算によりこれを確かめ,更に可能なブロック組み換え構造の安定性の予測に繋げたい.具体的には,SQSモデルを用いて,上記の中間組成を有する合金系のIG化合物について全エネルギーをVASP計算により求め,予想できる可能なブロック組み換え構造の安定性を予測し,ブロック組み換え(マルチモルフィズム)を支配する因子,その支配因子により決定される組み換えブロック構造を解明する.これまですべて当初計画よりも順調に進展しており,特筆すべき研究計画の変更や研究遂行上の問題点はない.また,実験で求めた水素吸蔵特性と第一原理計算で求まる水素の安定格子位置及びそのエネルギーから水素吸放出特性に及ぼすブロック組み換え効果を系統的に論じ,IG化合物のマルチモルフィズムと構造物性を明らかにする.
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備考 |
中華人民共和国西安交通大学材料科学科Z.Wu博士とA2B7型水素吸蔵合金の特性改善に関して継続的に議論を行っている.これまでの議論の成果を共同研究の証として国際専門雑誌(International Journal of Hydrogen Energy)に投稿,掲載した.さらにこのマルチモルフィズムという新規概念に従った特性改善手法についても共同研究を開始し,概念の共有化など着実に研究を進めている.
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