本研究では、FeやCoなどの強磁性元素(単体で強磁性体になる元素)を用いない系において、界面交換結合を用いた非磁性元素のスピン偏極の可能性について検討してた。特に、非磁性重金属(Ptなど)を反強磁性絶縁体(Cr2O3など)と界面交換結合させることによる重金属のスピン偏極の可能性について検討を進めた。平成30年度の主な成果を下記に記す。 (1) Pt/Cr2O3界面において、界面Crスピンに起因するPt層内での非線形ホール効果を検出し、その膜厚依存性、温度依存性を明らかにした。 (2) 観測されたホール効果の起源として、Pt層のスピン偏極について検討するために放射光を用いたX線磁気円二色性測定を行った。 (3) 上記の検討の段階で、Pt/Cr2O3界面においてスピンホール磁気抵抗効果(Spin Hall Magnetoresitance: SMR)が発現していることを新たに見出した。特に、この成果については研究開始当初には想定していなかった効果であり、この原理に基づいて反強磁性Cr2O3層の反強磁性転位を検出することにも成功している。 これらの結果については、2019年秋の日本金属学会において一部を発表しており、また、(3)については論文掲載済みである。(1)、(2)の成果についても、現在論文執筆を進めている。現在は、上記の成果を基に、さらなる発展を目指して、重金属元素の最適化、Cr2O3層のスピン方向を制御することによる、反強磁性スピン制御に展開する予定である。
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