本研究では,グラファイト粉末に対して直接導通を取らずに電解処理を施し,グラフェンを効率的に得る手法(ワイヤレス電解剥離法)を確立することを最終的な目的としている。これを実現するためには,インターカレーション反応,アノード酸化,バイポーラ電気化学,交流電解を組み合わせ最適な電解条件を確立する必要がある。最終年度は,2年目に得られた直流ワイヤレス電解におけるグラファイト板または粒子の剥離に関する基礎データを参考にして,剥離物の構造に及ぼす電解因子の影響を明らかにするとともに剥離の高効率化を目指したデバイスの開発を検討した。 前年度までに粒子径約1 mmのグラファイト粒子の剥離に成功したので,粒子サイズを段階的に小さくして単粒子の場合に剥離可能な粒子径を検討した。電解液には硫酸を用い,白金駆動電極間に処理したい試料を配置して電解を行った。その結果,0.5 mm以下の粒子では剥離が確認されないことがわかったが,同条件で粒子径20~500 μmの粉末を処理したところ,剥離が認められた。粉末のような粒子の集合体においては,複数の粒子が凝集することで,擬似的な大粒子のように振る舞い,剥離が進行したと考えられた。また,剥離物の構造に及ぼす電解因子の影響を明らかにするために,グラファイト板を用いた基礎検討を行った。その結果,駆動電極間に配置したグラファイト板に生じる電位差および電流を直接測定することに成功するとともに,電解因子が剥離物の構造に及ぼす影響は基本的には,直接通電と同じ傾向にあることを明らかにした。剥離の効率を上げるには駆動電極間距離を狭めるとともに,駆動電極間に試料を保持することが重要であるため,フロー式電解デバイスを開発し,剥離の効率の向上を検討した。この実験は現在進行中であり,今後の研究でワイヤレス電解剥離の高効率化を達成する予定である。
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