研究課題/領域番号 |
17K19000
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小平 哲也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究グループ付 (40356994)
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研究分担者 |
阪本 康弘 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (10548580)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | AFI / アントラセン / 単結晶 / 光学機能 / 多孔質結晶 |
研究実績の概要 |
0.7 nmの一次元細孔を有するAFI型多孔質単結晶に気相導入したアントラセンの光学機能創出にあたり、単結晶合成が先行している化学組成がシリカアルミノリン酸塩であるAFI型(以下、SAPO-5と呼ぶ。)単結晶中のアントラセンの電子物性評価を行った。 SAPO-5内のアントラセンはカチオニックな状態にあることが単結晶偏光顕微分光、及び電子スピン共鳴測定から確認された。この原因はSAPO-5結晶が有するブレンステッド酸点が働き、本来中性であるアントラセンから電子が引き抜かれたことによると解釈した。これに伴い、アントラセンが有する高効率蛍光特性は消失した。 カチオニック状態にあるアントラセンは、正孔を有することになるため、電気伝導特性に反映されることを期待した。一次元細孔の両端に電圧を印加することに相当するよう、2端子法による単結晶に対する電気伝導測定を行った。結果、熱活性型キャリアの存在が確認された。また、一次元細孔に対して垂直方向に電場印可した際は、絶縁体となった。 このような特異的かつ異方的な電気特性は、単にアントラセンがカチオニックであるだけでなく、その内部電子準位にも起因すると考察される。カチオニックなアントラセンでは理論計算からサブeVに光学禁制な電子準位の存在が指摘されている。この禁制準位への電子の熱励起と一次元状に配列したカチオニックなアントラセン分子間を熱励起電子が移動するという過程により、電気伝導が生じたと考えられる。 当初の目的とは若干異なったが、アントラセン分子とそれを導入する相手のSAPO-5単結晶の両方の特性の協奏・協調により、本成果を得るに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題が採択されたのが2017年7月であり、初年度の研究期間が若干短かったことが第1の理由として挙げられる。 SAPO-5単結晶ではアントラセン分子しても、その蛍光特性は維持されるのではなく、むしろ失われてしまった。しかし、予想外の分子内キャリア発生とそれに伴う電気物性の発現があったため、その考察に時間を要してしまったことが第2の理由である。ただし、得られた成果は大変興味深いものである。
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今後の研究の推進方策 |
SAPO-5単結晶中のアントラセンの物性計測は2017年度にて完結した。今後はこの結果を査読付き英文専門誌に投稿を行う。これと並行し、当初の目的であったアルミノリン酸塩型AFI(以下、AlPO4-5)単結晶を用いた蛍光を中心とした光機能創出に専心する。 AlPO4-5はSAPO-5と異なるのは骨格構成元素だけである。SAPO-5はAlPO4-5と比べ、シリカが余分に骨格に入っていることが、先のアントラセンのカチオニック化につながった。故に、AlPO4-5内アントラセンでは蛍光の発現は問題なく生じる。 AlPO4-5の一次元細孔内での吸着アントラセンの配置は分子長軸の一次元細孔に対する傾きは10°未満と計算から見積もられた。また、蛍光消失につながるアントラセン分子の2量体化(ジアントラセンの生成)や酸化(アントラキノンの生成)は制限された空間である一次元細孔内では生じ得ないと予測されることから、大気・屋内光下にてアントラセン内包AlPO4-5単結晶試料の取扱いが可能となる。これにより、顕微分光法による偏光吸収スペクトル測定が容易になる。ただし、顕著な蛍光を排除した上での、吸収スペクトル測定が求められる。 蛍光スペクトルは、強い蛍光をもたらす励起波長の確定が必要であるため、まず簡便な測定が適用できる粉末AlPO4-5結晶試料を合成し、これを利用する。この知見を基に、単結晶試料に対する蛍光特性の高度化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
【研究実績の概要】欄および【現在までの進捗状況】欄に記したように、当初計画とは若干異なる新規物性が発見されたため、その原理解明に注力し、若干の研究遅延が生じた。本年度は当初の計画に立ち戻り、目的を達成させられるよう、当初計画に基づいて助成金を使用する。
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