アントラセンを中心に,ポリアセンを内径0.7nmの一次元細孔を有するAFI型アルミノリン酸塩(AlPO)多孔質結晶内に高密度吸着させることに成功した。この有機-無機複合物質に対し,AFI結晶,アントラセンがそれぞれ単独では示し得ない,協奏的な電子物性を発現させることを狙った。 最も興味ある結果は,Siがヘテロ原子として原子比で5%弱骨格に含まれるAFI単結晶にアントラセンを吸着させた場合である。アントラセンは一般に無色透明の高い量子効率の蛍光を発する分子である。しかし,この単結晶に吸着させた場合,蛍光は完全失活し,かつ,一次元細孔に沿った強い偏光性の光吸収が可視光領域に現れた。これはSiに由来するブレンステッド酸点によるアントラセン分子の陽イオン化が起源であること判明し,その偏光性は分子の一次元配列・配向に由来する。更には,陽イオン化分子は互いに接する程度に隣接しており,電気伝導測定を行ったところ,スピン一重項状態を形成する元の分子では生じ得ない熱活性型の電気伝導を示した。光スペクトルには中赤外領域に新規な光吸収が現れるが,この励起電子準位に熱励起された電子が分子間を移動するモデルにより説明できることが判明した。 このほか,AlPO型AFIの高品位な粉末結晶合成法を見いだし,それにアントラセン及びテトラセンを吸着させ,吸着状態や光機能に関する基本特性を解明した。結果,分子とAFI結晶の相互作用はシクロヘキサンなどの有機溶媒のそれよりも弱く,細孔内に高密度状態で保持できる環境を提供していることが分かった。ポリアセンでは一般にその機能を劣化させる酸化が問題となるが,細孔内ではこれが抑制されることが熱分析により判明した。分子とAFIの一次元細孔のサイズが非常に良く一致しているために,細孔内への酸素分子の侵入が阻害されていると解釈できる。
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