今年度は、より確実に親和性成熟を実現するために、増殖とは逆の細胞死シグナルを伝達する受容体Fasを利用した競合選択系も開発した。この系では、抗原‐Fas融合蛋白質と、抗原特異的抗体クローンを用いたAP20187依存的二量体化抗体を細胞に遺伝子導入して共発現させる。得られた細胞に、使った抗体クローンの抗原親和性に影響する部分の配列をランダム化した抗体ライブラリーを遊離の状態でさらに共発現させる。この細胞にAP20187を添加して培養すると、抗原‐Fas融合蛋白質が活性化されて細胞は死滅するが、抗体ライブラリーの中に、元の抗体クローンより親和性の高い抗体があれば、その抗体は二量体化抗体よりも優先的に抗原に結合するので、抗原‐Fas融合蛋白質の二量体化を阻害し、細胞死を阻害して生存する。生存した細胞から抗原への親和性が上昇した抗体遺伝子を得ることができる。 本系を実証するために、抗原としてErbB2、元となる抗体クローンとして抗ErbB2 scFvであるML3-9を用いてライブラリースクリーニング実験を行った。その結果、生存した細胞群が得られた。この細胞群から得られたscFvクローンについて、動物細胞発現系でscFvタンパクを発現・精製し、表面プラズモン共鳴法により抗原親和性を測定した結果、ML3-9よりも解離が起きにくく高い親和性で結合するscFvクローンが複数得られた。これらのscFvクローンのエピトープを水素-重水素交換質量分析法により検証した結果、いずれも元クローンML3-9のエピトープと同一であることが分かった。以上より、本法では特定のエピトープに結合する抗体の親和性成熟が可能であることが示された。
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