研究課題/領域番号 |
17K19009
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
下山 裕介 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (30403984)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 共結晶 / 超臨界流体 / 医薬品物質 |
研究実績の概要 |
抗菌薬剤として利用されるNorfloxacinの体内での溶解速度の工場を目的とし,二酸化炭素分子を共有体とする共結晶の製造に向けて,水中における二酸化炭素のスイッチ効果を利用した手法を適用した.水中に固体のNorfloxacinを分散させ,二酸化炭素をバブリングさせることで,水中のNorfloxacinがイオン化することで,水に溶解することを確認した.二酸化炭素を30分間バブリングさせた後に,窒素ガスを30分間水中へバブリングさせることでNorfloxacinを再析出させた.再析出したNorfloxacinに対して,X線回折パターン,赤外吸収スペクトルを測定した結果,二酸化炭素分子との共結晶の形成は確認されなかった.これは,Norfloxacinは水中において水和構造を形成し,その水和構造が,共結晶構造よりも安定であったためと考えられる. 水中での共結晶製造を回避するために,室温・大気圧化において二酸化炭素ガスをNorfloxacinに接触させる手法により,二酸化炭素分子を共有体とする共結晶の製造を図ったが,X線回折パターン,赤外吸収スペクトルより共結晶の形成は確認されなかった.そこで,高圧状態の超臨界二酸化炭素をNorfloxacinに接触させる手法を用いて,共結晶の形成を試みた.超臨界二酸化炭素による実験では,40℃,20MPaの条件下において,3時間Norfloxacinと接触させた.その結果,示差走査熱量測定,X線回折パターン,赤外吸収スペクトルより,Norfloxacinと二酸化炭素分子との共結晶の形成が確認された.さらに,超臨界状態の二酸化炭素を大気圧へ減圧する際の減圧速度が,共結晶の形成に影響することも確認された.以上のように,超臨界二酸化炭素中で処理する簡易的な操作により,酸化炭素分子を共有体とするNorfloxacinの共結晶の製造 を構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題を提案する上で,水中における二酸化炭素のスイッチ効果を利用した共結晶の製造を試みたが,対象物質の水和構造の安定性に阻害され,水中での共結晶の形成は困難であることが確認された一方で,超臨界二酸化炭素の高い拡散性と浸透性といった特性を利用することで,共結晶の形成が確認されたことは,当初の目的を十分に達成していると判断できる.従来の共結晶の形成においては,対象物質と共有体を一度溶液中に溶解させる手法が主として用いられてきたが,本研究課題で提案する共有体となる二酸化炭素分子を超臨界状態において,対象物質を溶解せずに固体のまま接触させる手法は,従来の共結晶製造過程よりも簡易操作となるため,新規な製造プロセスが期待できる. また,超臨界二酸化炭素を接触させる手法において,接触操作の後の減圧操作が共結晶の形成に影響することを見出したことは,学術的のみならず工業的にも価値ある知見であると考えられる. 以上より,本研究課題は,当初の目的に対して順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
二酸化炭素を共有体とする共結晶の製造については,これまでに一切報告例はなく,本研究課題において超臨界状態の二酸化炭素を接触する操作のみで,共結晶の形成を確認したことは,今後の研究推進において有益な知見である.今年度は,超臨界二酸化炭素と対象物質との直接接触と,減圧操作により共結晶の形成を確認するに留まっており,今後は共結晶の形成割合の向上が課題として挙げられる.さらには,形成した共結晶について,体内への溶解速度を定量的に把握することも重要となる.そのため今後は,以下の項目を推進することで,二酸化炭素分子を共有体とする共結晶製造プロセスの構築に取り組んでいく. (1) 超臨界二酸化炭素の操作条件,減圧速度と共結晶の形成割合との相関性を明らかにする. (2) 二酸化炭素分子を共有体とする共結晶の体内における溶解速度の向上を定量的に把握する. (3) 他種の医薬品化合物において,超臨界二酸化炭素と対象物質との直接接触と,減圧操作による共結晶の製造について,適用性を明らかにする.
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