研究課題/領域番号 |
17K19010
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
清水 一憲 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70402500)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 再生医学 / ストレス / 移植・再生医療 |
研究実績の概要 |
未分化ヒトiPS細胞は生体に移植すると、増殖して良性腫瘍を形成するリスクがある。このため、iPS細胞由来の分化細胞を移植する治療法を安全に実施するためには、移植細胞群の中に含まれる残存未分化iPS細胞群を確実に取り除く必要があり、そのための細胞分離手法の開発が求められている。本研究の目的は、我々が発見した高濃度アミノ酸入り細胞培養液に対する細胞応答を、1)残存未分化iPS細胞分離技術に応用すること、さらに2)その細胞応答機構のメカニズム解明を行うことである。 一年目の平成29年度は次の内容を実施した。 1)未分化iPS細胞と各種分化細胞を用いて、アミノ酸濃度と処理時間による細胞生存率への影響を調べ、未分化iPS細胞が死滅し線維芽細胞が効率よく生き残る条件を見出した。さらに未分化iPS細胞と線維芽細胞を共培養した状態で1.2 Mの高濃度アミノ酸添加培地で2時間処理したところ、未分化iPS細胞が選択的に除去された。さらに処理を繰り返したところ、未分化iPS細胞の混合率を0.1%以下まで低下させることができた。 2)ヒト骨格筋細胞、ヒトiPS由来線維芽様細胞、ヒトiPS由来心筋細胞に対して処理を行い、これらの細胞が未分化iPS細胞に比べて、高濃度アミノ酸溶液処理に対して有意に耐性をもつことを見出した。高濃度アミノ酸溶液処理のプロセスをライブイメージングで観察した。その結果、高濃度アミノ酸溶液から通常の培地に戻した際に、未分化iPS細胞は急激に膨張する様子が観察され、この膨張が細胞死を誘導していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、処理条件の最適化を行った。またライブイメージングにより、未分化iPS細胞の細胞死プロセスを観察することに成功した。一部計画を変更し、処理細胞数と溶液量の影響やpHを変えた際のライブイメージング実験は次年度実施することとした。一方、当初、次年度に計画していた他の分化細胞を用いた実験や混合培養系の実験を本年度に実施した。本年度の研究成果の一部を学会発表するに至った。このことからおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の進捗に従い、申請書の実験計画を一部変更し、以下の課題を最終年度である平成30年度に行う。 1)未分化iPS細胞分離技術への応用の続きを行う。処理細胞数と溶液量を変え、細胞分離効率に与える影響の有無を明らかにする。本実験は未分化iPS細胞を用いて行う。 2)細胞応答メカニズムの解明の続きを行う。pHを変えた際のライブイメージング実験を行う。またこれまでの成果から、膜たんぱく質やエンドサイトーシスの関与が示唆されていることから、膜タンパク阻害剤やエンドサイトーシス阻害剤を用いて、これらの関与を明らかにする。また本年度の成果で、iPS細胞が分化過程で耐性を獲得していくことが強く示唆されたため、iPS細胞が分化のどの段階で耐性を獲得するのかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部計画を変更し、培地や培養機材等の消費量等の多い実験を次年度に実施することとしたため。次年度の計画通り、変更した実験を含む、未分化iPS細胞分離技術への応用やメカニズム解明のための実験で使用する。
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