本研究では,BSAヒドロゲルと脂質二分子膜の特性を組み合わせた『高感度・高ダイナミックレンジな酵素センサー』を新たに設計し,次世代の非侵襲的酵素センサー開発を第一の目的として研究を行っている。さらに,設計するセンサー系を応用し,新しい『基質応答型の薬物放出システム』の創出を第二の目標としている。令和元年度においては,以下の研究項目を遂行した。 (1)高感度・高ダイナミックレンジなグルコース計測用GODセンサー:センサー応用として適切なBSAゲルの作製条件を精査した。特に,ゲル作製時のBSA濃度について,グルコースの取込として適切なゲルの膨潤・収縮が可能となる濃度領域があることを明かとした。また,GODを細孔内に導入したGOD固定化メソポーラスシリカ粒子を作製し,BSAゲルを組み合わせたグルコースセンサーを設計・試作した。その結果,直線性に優れ,目的とするだ液や尿中グルコース計測が可能な検出限界,繰り返し再現性を持つセンサー開発に成功した。
(2) グルコース応答型の薬物放出システム開発:BSAゲルを被覆したナノ多孔粒子の合成条件を精査した。その結果,目的とするゲル被覆を可能とする条件を見いだしたため,薬剤放出に関する実験を行った。ここでは,観察しやすいポルフィリン系物質の薬剤導入・放出について検証した。BSAゲル被覆ナノ多孔粒子を純水中に分散させたところ,温度と薬剤(還元性物質)に応答して鋭敏に薬剤放出するシステムとなることを確認した。一方,生理食塩水中に分散させた系では,イオン強度に依存した薬剤放出が観察された。そこで,BSAゲル被覆ナノ多孔粒子の作製条件を再検討し,生理食塩水中においても温度と薬剤(還元性物質)に応答して鋭敏に薬剤放出するシステムとなることが分かった。
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