研究課題/領域番号 |
17K19023
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山田 豊和 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (10383548)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 走査トンネル顕微鏡 / 鉄 / MgO / スピンとニクス / 表面磁性 |
研究実績の概要 |
Fe(001)-p(1×1)O 上のMgO成長をSTMにて確認した。Fe(001)-p(1×1)O表面に、Mgを、基板温度を調整しながら酸素雰囲気中(10-6Pa)で蒸着した。その結果、四角い形のbcc-MgO(001)のナノ島(大きさ約20 nm)を形成できた。酸素雰囲気中でMgを蒸着する手法では、Mg蒸着量を増やすと、MgO島の大きさはほとんど変化しなかったが、島の高さが増加した。本研究では最大5原子層厚さの島まで確認した。 酸素雰囲気中でのMg蒸着量を増やすほど、MgO島(大きさ約20 nm)の数は増えた。被覆率は約10-50%であった。つまり、MgO島が5原子層厚さにまで成長しても、表面の半分はFe(001)-p(1×1)O基板が析出していた。1-5原子層厚さに増えるほどバンドギャップは増加した。全ての四角型のMgO島は同じ電子状態密度曲線を示した:ギャップ幅3.4 eV(-2.0 eVから+1.4 eV)。1つのMgO島内の各原子位置の電子状態密度曲線を計測したところ、表面は原子レベルで平坦であり表面のほぼ全ての電子状態も均一であった。1個の島にわずか数個の原子欠陥を確認した。ギャップ幅3.6 eV(-2.5 eVから+1.1 eV)と金属的特性を示す2種類の原子欠陥を確認した。 MgO島上に5 KにてFe原子を吸着した。ところがFe(001)-p(1×1)O基板表面にはFe原子が観察されるのに、同じ表面上のMgO島上にFe原子は確認されなかった。MgO島の伝導帯の幅の狭さが原因であった。ギャップは+0.7 eVまであり、伝導帯は+1.5 eVまでしかなかった(仕事関数:約3.5 eV, 価電子帯の上:-2.0 eV)。STM計測電圧を+0.7 eVから+1.5 eVの範囲内で、Fe原子を観察できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度、Fe(001)-p(1×1)O表面上に、原子欠陥の少ないMgO島の作製に成功し、MgO上のFe原子の観察条件とその原因を解明できた。しかし、電界や磁界効果の実証実験は完了しなかった。電界効果に関しては、STM計測でFe原子を観察できる電圧領域が0.8-1.5 V、また探針試料間距離を制御する電流も50 pAまでで、50 pAを超えるとFe原子はMgO表面から消えてしまった。Fe原子に電界を印加できる範囲は、0.62-0.96 GV/mの範囲だけであり、正と負の電界による印加実験はできなかった。 Fe原子に磁界を印加して, 磁気異方性や磁化ヒステリシス曲線の計測を行う予定であった。しかし、2019年5-11月にわたり、STM装置の粗動機構にトラブルが生じた。X粗動トラブルでSTM測定ができないわけではないため、当初実験継続の判断をした。しかし、日ごとに粗動の動きが悪くなり、また、探針交換が適切にできなくなってしまった。特にMgOは絶縁体である。本来、導電性試料を観察するためのSTM計測には不適切な試料である。探針先端に絶縁物が吸着すると、探針は正常にトンネル電流が検出できなくなってしまう。最終的にSTM計測を止め、真空チェンバを解体しSTM修理作業に入った。これにより、研究計画が6か月程遅れることとなった。最終的に、2020年度への研究延長を申請し受理された。
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今後の研究の推進方策 |
2019年12月にSTM装置が復旧した。その後、至急、STM装置の動作確認、原子像の確認、低温実験を2020年2月までに行った。酸素雰囲気中でのMg蒸着時の、Mg蒸着スピード、基板温度、酸素濃度のわずかな違いで、MgO膜成長することも確認した。厚さ5原子層分のMgO島を作成した際、島の被覆率は約30-50%であったので、膜として全表面が被覆されるならば、1.5-2.5原子層分:約2原子層分、成膜したことになる。MgO膜のバンドギャップ幅は約2eVであり、厚さ1-2原子層のMgO島のギャップとほぼ一致した。2020年3-4月の現状はコロナウィルスの感染拡大に伴う自粛要請を受け大学内にはいることが制限されたため、研究室での実験を停止している。自粛要請が解除され次第、研究を再開する。再開後は、極低温に再びSTMを冷却する。MgO島または膜の上にFe原子を蒸着したい。超伝導コイルを用いて磁場を印加し、磁気ヒステリシスM-H曲線を計測したい。M-H曲線から、磁気異方性を求める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度、Fe原子に磁界を印加して, 磁気異方性や磁化ヒステリシス曲線の計測を行う予定であった。しかし、2019年5-11月にわたり、STM装置の粗動機構にトラブルが生じた。X粗動トラブルでSTM測定ができないわけではないため、当初実験継続の判断をした。しかし、日ごとに粗動の動きが悪くなり、また、探針交換が適切にできなくなってしまった。特にMgOは絶縁体である。本来、導電性試料を観察するためのSTM計測には不適切な試料である。探針先端に絶縁物が吸着すると、探針は正常にトンネル電流が検出できなくなってしまう。最終的にSTM計測を止め、真空チェンバを解体しSTM修理作業に入った。これにより、研究計画が6か月程遅れることとなった。最終的に、2020年度への研究延長を申請し受理された。2020年3-4月の現状はコロナウィルスの感染拡大に伴う自粛要請を受け大学内にはいることが制限されたため、研究室での実験を停止している。自粛要請が解除され次第、研究を再開する。再開後は、極低温に再びSTMを冷却する。MgO島または膜の上にFe原子を蒸着したい。超伝導コイルを用いて磁場を印加し、磁気ヒステリシスM-H曲線を計測したい。M-H曲線から、磁気異方性を求める。
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