研究課題/領域番号 |
17K19024
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩足 亮隼 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (50755717)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | 原子間力顕微鏡 / 走査トンネル顕微鏡 / 水素結合 |
研究実績の概要 |
本研究では、個々の水素結合の力の大きさと分布を高空間分解能で定量測定する手法の確立を目的としている。2つの原子間にはたらく微小な力を検出することができる非接触式原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、表面上に吸着した分子と探針先端原子との間に働く個々の水素結合力の検出を試みるものである。 上記研究目的の遂行には、構造が規定された分子修飾探針を作製することが重要である。今年度の研究によって、特徴の異なる複数の分子修飾探針の作製に成功した。また、その探針の機能を評価するために、表面吸着分子をAFM観察して構造決定を行った。 まず、一般的にAFMの空間分解能が向上することが知られている一酸化炭素(CO)探針を用いて、銅表面上のヘリセンのキラル識別を行った。ヘリセンは螺旋型の多環芳香族炭化水素であり、その立体形状からキラリティを有する。CO探針を用いることで、ヘリセン単分子の高分解能AFM測定に成功した。更に、表面上から探針先端に分子を移動させることでヘリセン修飾探針を作製した。このヘリセン探針は安定であり、CO探針と同等の高分解能AFM像が得られることが示された。ヘリセン探針を用いたAFM観察によって、走査トンネル顕微鏡(STM)像では判定できない表面上のヘリセン複合体の個々のキラルを識別することができた。 さらに、一酸化窒素(NO)修飾探針の作製にも成功し、Cu(111)表面上における水とNOの複合体の構造解明を行った。その結果、水とNOが水素結合することで水3分子とNO4分子から成る特異的な複合体が支配的に形成することが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの研究により、先行研究にて多用されている一酸化炭素探針とは異なる構造を有する、ヘリセン探針や一酸化窒素探針を作製した。これらの新しい探針の作製の成功は、水素結合の比較計測を可能にする重要な成果である。また、複数の表面吸着分子系において、単分子レベルで吸着分子の構造解明に成功した。しかしながら、水素結合しうる表面吸着分子系の探索に予想以上に時間を要したため、当初の目的である水素結合の高空間分解能計測には至っておらず、次年度の課題となっている。これらの現状から進捗がやや遅れていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により、安定かつ構造が規定された分子修飾探針の作製に成功した。次年度は、水素結合しうる表面吸着分子系の探索に焦点を絞る。様々な吸着分子に対して分子修飾探針を接近させ、力を測定することで水素結合の検出を試みる。 水素結合ではないが、本研究で用いるAFM装置によって既に、探針先端分子と表面分子との間に働く極めて微小な力の定量測定に成功している。この測定手法を水素結合系に適応することで目的達成を狙う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、本年度の計画にやや遅れが生じ、研究遂行に必要な物品・消耗品の購入が来年度に持ち越しになったことが主な要因である。次年度は、当初の計画通り、試料作製・精密測定のための真空部品・計測機器の調達、学会参加・調査用の旅費、印刷費、および論文投稿にかかる費用に使用する。
|