研究課題/領域番号 |
17K19025
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
三宮 工 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (60610152)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / 表面・界面物性 / ナノ材料 / その場観察 |
研究実績の概要 |
本研究では透過型電子顕微鏡用の水溶液中その場観察プラットフォームである「ナノキュベット」を開発し、バイオ応用を目指すものである。この手法では、水溶液層を非常に薄く保つことができるため、電子線の散乱をおさえることができ、高い空間分解能で液中観察をすることができる。H29年度までに、ナノキュベットの構造最適化・閉じ込め状態の確認、電子顕微鏡法の整備を行った。 H30年度には、1)ダメージ低減、2)冷却ホルダの整備、3)タンパク質の観察、4)光導入光学系の整備を行った。 1)ダメージ低減のための手法開発として、カメラ制御開発言語を導入した。これによりビーム制御・取り込み時間の最適化のプログラミングを行うプラットフォームが整った。また、試料側の対策として、カーボン壁を厚くすることでダメージの少ないナノキュベットが作製できた。 2)CLベースの装置に対応した液体窒素による冷却ホルダの基本的な構造ができあがった。今後試料抑え先端部を作製し完成させる予定である。冷却ホルダはTEM導入前に、真空や冷却を単体を評価する。単体評価専用真空チャンバを作製し、ホルダ評価が可能な環境が整備された。 3)最適化されたカーボンナノキュベットを用い、タンパク質の観察を行った。抗体分子IgGの観察において、これまでにない明瞭なコントラストでの構造観察に成功した。加えて、IgG分子が鎖のようにつながったオリゴマー状態が観察された。IgMでのこのようなオリゴマー形成は報告されているがIgGでは報告例がない。引き続き確認が必要である。 4)光導入のための基本設計・光学系導入を完了した。電子線と光の位置を10um以内の範囲で合わせられることが確認できたが、精度の向上が必要である。また、試料側で光との相互作用を高めるための構造としてプラズモニック・ナノキュベットの最適化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29-30年度までに予定していた、ナノキュベットの構造最適化(ダメージ低減含む)、光学測定による閉じ込め状態の確認、電子顕微鏡法の整備、冷却ホルダの整備、タンパク質観察、光導入機構の整備をほぼ予定どおり行うことができている。ナノキュベットの最適化はタンパク観察において低ダメージが確認できており、またその延長として光との相互作用を高めるプラズモニックナノキュベットの最適化およびその基礎研究にも発展している。その中で、特定のナノキュベットの光場を増強可能なことがわかってきており、物質だけでなく、場の閉じ込めにも成功している。カメラ制御プラットフォームを含む電子顕微鏡法、冷却ホルダ、光導入機構など測定系の整備も順調に進んでいる。 最適化されたナノキュベットの確認として観察したIgGの測定では、これまでよりもはるかに高いコントラストと分解能でIgG分子を観察することができた。また、その中で、報告例のないIgGオリゴマーが観察されている。分子の弱い結合による集合体の形成は通常測定方法がなく、本手法の強みであることから、今後この結果については生体分子の専門家と相談しながら新たな研究課題として発展させていく予定である。 また光導入を想定し、光との相互作用を高めるナノキュベット開発にも着手しており、ナノキュベットの光閉じ込めを有効に使い、分子への光エネルギー注入を効率化できそうである。この効果はキュベット位置に依存することがわかってきており、位置依存性を発展研究として現在調査している。 光導入機構に関しては直径6mmの放物面鏡の反射光と電子線位置を一致させる手法の確立に時間を要したが、ミラー調整機構に6軸を導入し10um以内に調整できている。実測定のための調整の簡便化を2019年度に予定している。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は当初の計画通り、1)光応答材料の導入、2)顕微鏡内の光スペクトルの測定、3)ナノキュベットからのカソードルミネセンス測定、4)冷却測定、を実施する。加えてこれまでの研究の中で発展課題として得られた、A)IgG分子鎖の研究、B)ナノキュベットによる光閉じ込めの研究、を行っていく。 1)光応答材料に関しては、光応答タンパク(ロドプシン)、光応答色素分子(アゾベンゼン系の高分子)を測定する予定である。光応答による構造変化は微小であるため、コントラスト向上のためのイメージング最適化が必要となる。2018年度に導入したカメラ制御プラットフォームを活用し、照射傾斜スキャンなどコントラスト向上を目指した試みも実施する。このコントラスト向上は発展課題のA)IgG分子鎖の研究にも応用可能である。 2)過去の研究において、GFPなどにおいて電子線照射による蛍光分子の変化の報告が出ており、電子顕微鏡の構造測定からでは検出が難しいタンパク質や有機分子の変化について本実験でも調査を行う。これまでに光導入が可能となっているので、スペクトル測定系を確立し、透過スペクトルあるいは蛍光スペクトル観察を実施する。 3)上記の蛍光スペクトル観察と同様のことがカソードルミネセンス測定によっても確認できるため、カソードルミネセンス測定も行う。これまでの発展課題として得られたB)光閉じ込めの研究にもこのカソードルミネセンスによる局所分光を活用する。 4)上記すべての測定におけるダメージ低減には冷却が有効であると考えられるため、2018年度までに準備してきた冷却ホルダを完成させ測定へと結びつける。ナノキュベットベースの簡便なクライオ電顕測定も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
冷却ホルダ単品評価のための真空系(チャンバー、ターボポンプ、真空計)の購入を予定していたが、閉鎖した研究室等からの譲渡部品を集めて、自力で装置を組むことができたため一部予算を節約することができた。これらの予算は、2019年最終年度の研究加速のための研究員人件費に充てる。特に、冷却ホルダや測定系などハードウェアにかかわる部分を完成させ、実験系を早急に確立することを最優先する。
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