研究課題/領域番号 |
17K19028
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
秋山 佳丈 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (80585878)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 瞬間凍結 / 低温生物学 / 細胞保存 |
研究実績の概要 |
本研究では,インクジェット技術による微小液滴を利用し超瞬間的に凍結することで,凍結保護剤フリーの凍結保存手法を確立することを目指している.H29年度は以下の項目について研究を行った. ・動物細胞における超瞬間凍結保存法の確立.インクジェットを用いて,微小液滴中に細胞を内包し,液体窒素で冷却した基板に吐出することで,凍結保護剤を用いずに細胞を生きたまま凍結する技術を確立した.細胞には,哺乳類細胞株であるマウス繊維芽細胞を用いた.液滴サイズが200 pLのときは20%程度だった生存率が,液滴サイズを40 pLとすることで,急激に上昇し80%の生存率で凍結保存することに成功した. ・凍結液滴の観察と計測による状態の解明.まず,凍結時の液滴を高速度カメラで撮影し,着滴から凍結するまでの輝度の変化を評価することで,本手法でガラス化するかどうかを確認した.ガラス化コントロールとして20 %のグリセロールを含む培養液を液体窒素で冷却した基板に吐出を,結晶化コントロールとして培養液をドライアイスで冷却した基板に吐出を行った.その結果,ガラス化コントロールは透明のまま画像上でも輝度の上昇はみられず,結晶化コントロールは白濁し輝度上昇が見られた.以上から,ガラス化した場合は輝度変化がないこと確認できた.そして,40 pLの液滴を超瞬間凍結し評価したところ,輝度変化はなかった.すなわち,ガラス化していることが示唆された.次に,顕微ラマン分光によりOH結合の伸縮振動域のスペクトルを測定した.その結果,超瞬間凍結した液滴にはこの領域のピークが見られず,こちらの結果も液滴内の水がガラス化していることを示した.以上から,40 pLの液滴はガラス化していることが確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,インクジェット技術による微小液滴を利用し超瞬間的に凍結することで,凍結保護剤フリーの凍結保存手法を確立することを目指している.H29年度は以下の項目について研究を行った. ・動物細胞における超瞬間凍結保存法の確立.インクジェットを用いて,微小液滴中に細胞を内包し,液体窒素で冷却した基板に吐出することで,凍結保護剤を用いずに細胞を生きたまま凍結する技術を確立した.細胞には,哺乳類細胞株であるマウス繊維芽細胞を用いた.液滴サイズを40 pL程度とすることで,凍結保護剤を用いずに80%の生存率で凍結保存することに成功した. ・凍結液滴の観察と計測による状態の解明.インクジェットを利用し超瞬間凍結した液滴の状態を高速度カメラおよび顕微ラマン分光により評価した.まず,高速度カメラにより観察し,凍結時に液滴が白化しない,すなわち結晶しないことを確認した.次に,顕微ラマン分光によりOH結合の伸縮振動域のスペクトルを測定した.その結果,超瞬間凍結した液滴にはこの領域のピークが見られず,ガラス化していることが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
・シミュレーションによる冷却速度の推定. 超瞬間凍結法における冷却速度の直接測定は,液滴が微小なため困難である.そこで,有限要素法に基づく数値計算により液滴の温度変化を概算し,冷却速度を算出する.これにより,超瞬間凍結に必要な冷却速度を定義する. ・各種生体試料への応用.凍結保護剤の添加が望ましくない生体試料や,そもそも凍結保存が困難な生体試料への適用を目指す.例えば,哺乳類の血球,ヒト多能性幹細胞や微生物などを想定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度,高速度カメラを購入予定であったが,顕微ラマン分光がより液滴のガラス化評価に適している可能性が出てきた.そのため,繰越および本年度分の助成金を合わせて,顕微ラマン分光装置を購入する予定である.
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