研究課題/領域番号 |
17K19032
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内田 幸明 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60559558)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 反応 / 液晶 / エマルション / カプセル / 物質拡散 |
研究実績の概要 |
最近、化学合成に関して、実験室からプラントへのスケールアップを容易にする反応器としてマイクロリアクターが注目されている。一方、生体は、細胞や細胞内小器官を反応器や分離器の単位とすることで、分子レベルで反応・分離・精製を連続的かつ高効率に行う、マイクロリアクターより高度なマイクロ物質流通システムと言える。研究代表者は、物質の輸送と変換の過程を分子レベルで最適化する人工的なマイクロ物質流通システムを用いて、化学製品の究極的な精密合成や人工的な化学シグナル伝達システムの構築を目指している。そのための反応器に求められる機能は、物質の投入・反応・回収の制御である。 人工的なマイクロ物質流通システムを実現するための反応器の単位として、液晶マイクロカプセル (液晶MC) は有望である。液晶MCは液晶をシェルとするコアシェル型二重エマルションである。液晶は、異方性を持った流体であり、刺激に応答して物性が劇的に変化する (e.g. 液晶ディスプレイ) ため、反応器に転化できると考えられる。つまり、MCの内外を隔てる液晶シェルによって原料の投入と生成物の回収を制御し、反応中の物質を選択的に保持する機能が実現できるはずである。一般的な液体をシェルとするMC (液体MC) における物質の輸送の機構としては、単純な拡散に加えて、界面活性剤が促進する拡散が提案されてきたが、定量的で普遍的な議論はなされてこなかった。 本研究では、化学発光および蛍光の強度の経時変化を測定することで、MCのシェルにおける物質拡散を定量的に議論し、反応器としての液晶MCの物質拡散機構の解明を目指す。 本年度は、スメクチック液晶カプセルの作製と液晶カプセルの配列制御について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液晶シェルにおける物質透過のモデルを構築するために、ルミノールをコア部に溶解した液晶MC の外水相に過酸化水素を添加した後、内水相で起こる化学発光の経時変化を追い、シェル部の拡散係数を求めた。また、拡散における界面活性剤や分子配向の影響を定量的に明らかにした。現在、投稿論文を準備中である。 内水相と外水相の浸透圧差が、液晶シェルにおける水の透過に与える影響について検討した。外水相への塩の添加による液晶MCの圧縮と、内水相への塩の添加による液晶MCの膨張を観察した。これらの手法は内水相の大きさを変化させるために利用できるほか、シェル厚の調整にも有効であると考えられる。以上の研究の成果について、平成31年度中に論文投稿を行う。 液晶にごく少量の親水性溶媒を添加し、MC を作製すると同時に、外水相への溶媒拡散により液晶状態を回復し、液晶MC を作製することによって、高粘度・高融点の種々のスメクチック液晶を用いた液晶MCの作製について検討を行ってきた。これまでの研究の成果については、平成30年度中に学会発表を行った。また平成31年度には論文投稿を行う。 また、液晶MCの配列を形成し、複数のMCの機能を統合してマイクロ物質流通システムを構築するために利用する容器としての規則性多孔フィルムの作製法の改善と、その改質のために必要な機能性ナノシートの合成法の開発についても、検討を行った。これらは、当初、計画していたものではないが、今後、マイクロ物質流通システムを構築していくために、不可欠の要素となると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
液晶MC はマイクロ流体デバイスに液晶を流して作製するため、高粘度もしくは高融点の液晶のMC を作製することが難しい。通常、加熱可能なマイクロ流体デバイスを用いて、液晶を加熱して流動性を改善して液晶MC を作製するが、流動性が十分でない液晶も多い。我々は、これまでに、室温で高い流動性を有するネマチック (N) 液晶にごく少量の溶媒を添加し、MC を作製すると同時に、溶媒拡散により液晶状態を回復し、液晶MC を作製することに成功している。本研究では、高粘度・高融点の液晶を用いた液晶MC の作製について検討する。 反応器としての液晶MC を配列し、マイクロ物質流通システムを構築するには、液晶MC のライブラリーを作製することが重要である。これまでに開発してきた手法を用いて、種々の液晶を用いて液晶MCを作製し、物質拡散の異方性を調べる。特に、シェルを構成する液晶性化合物、液晶の配向状態、液晶相の違いが物質拡散に与える影響を明らかにする。 マイクロ物質流通システムの構築に利用する容器としての規則性多孔フィルムの作製法の改善と、機能性ナノシートの合成法の開発についても、継続的に検討する。 以上の研究の成果について、得られた結果を取りまとめ、学会発表を行う。
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