研究課題/領域番号 |
17K19034
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
冨田 知志 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (90360594)
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研究分担者 |
金森 義明 東北大学, 工学研究科, 准教授 (10333858)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | メタマテリアル / MEMS / カシミール力 / 量子真空効果 / 零点振動 / 量子浮上 / 低摩擦 / 微小力センサー |
研究実績の概要 |
サブミクロン距離を隔てた金属膜の間には、量子真空効果である零点振動を起源とするカシミール力が働く。カシミール力は通常は引力であるが、特殊な誘電率・透磁率の組み合わせでは斥力が起こるとされる。カシミール斥力を用いた量子浮上は、微小電気機械システム(MicroElectro Mechanical Systems:MEMS)の低摩擦化・省エネルギー化を可能にするなど大変興味深い。しかしこれまでカシミール斥力の実験的な報告はほとんどない。本研究では誘電率と透磁率の精密制御が可能な人工構造物質(メタマテリアル)をMEMSと融合することで、MEMSカンチレバーのカシミール斥力による量子浮上を実証することを目的としている。工学的観点からは、本研究は極限微小力センサーの開発にも繋がると期待される。 初年度は、金属構造や磁性膜での実験を通じて、まずメタマテリアルのデザイン及びそれを融合するMEMSカンチレバーの仕様を検討した。これと共に、微細加工や評価に用いる要素技術について検討を行った。そしてメタマテリアルのデザインを、銀・誘電体・銀の三層膜のダブルフィッシュネット構造に決定し、それを融合するMEMSカンチレバーの仕様も決定した。また評価手法として現有の超高周波ドップラー振動計を用いることを決めた。一方、メタマテリアルとMEMSカンチレバーの特性を数値シミュレーションで予測する為に、どのようなシミュレータを導入するかを詳細に検討した。その結果、COMSOLマルチフィジクスシミュレータ(波動光学モジュール+MEMSモジュール)を導入することとした。これらにともない計算機環境、及び実験環境の整備を行った。以上の研究の過程で得られた知見は投稿論文、及び学会などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属構造や磁性膜の実験を通して、メタマテリアルのデザイン及びそれを融合するMEMSカンチレバーの仕様を検討した。それと共に、ほぼ二か月おきに代表者が東北大学の分担者を訪問し、微細加工や評価に用いる要素技術についての議論・検討を行った。そしてメタマテリアルのデザインを銀・誘電体・銀の三層膜のダブルフィッシュネット構造に決定した。更に、現有の超高周波ドップラー振動計を用いた評価手法の検討を基に、片梁及び両梁MEMSカンチレバーの仕様も決定した。一方、メタマテリアルとMEMSカンチレバーの特性を数値シミュレーションで予測する為に、どのようなシミュレータを奈良先端大に導入するかを試用を行いながら検討した。その結果、COMSOLマルチフィジクスシミュレータに波動光学モジュールとMEMSモジュールを組み合わせたものの導入を決めた。これらにともない計算機環境、及び実験環境の整備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
奈良先端大に導入したCOMSOLマルチフィジクスシミュレータと波動光学モジュールを組み合わせ、ダブルフィッシュネットメタマテリアルの光学応答を計算する。またMEMSモジュールを組み合わせることでカンチレバーの振動数も計算する。数値計算で予測したこれらの特性を、試料作製や評価などの実験にフィードバックすることで、迅速な目標達成を目指す。代表者も参加して分担者の東北大学で、電子線リソグラフィ、スパッタリング及び真空蒸着による成膜、そしてエッチング等を用いて、メタマテリアル融合MEMSカンチレバーを作製する。そしてメタマテリアルが応答する波長の光を照射した状態で、超高周波ドップラー振動計を用いてカンチレバーの振動数を調べる。光照射が無い場合と比較し、働いている力の大きさを評価する。これによりカシミール斥力の観測を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に奈良先端大への導入を予定していたシミュレータの仕様検討と試用に予定よりも時間がかかったため。しかしながら次年度の早い段階で発注する予定であり、計画の遂行には支障はない。
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