研究課題/領域番号 |
17K19041
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
三宅 丈雄 早稲田大学, 理工学術院(情報生産システム研究科・センター), 准教授 (50551529)
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研究分担者 |
太田 善浩 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10223843)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 電気化学式バイオトランスデューサ / pH制御 / ミトコンドリア / ATP合成 / 電子・イオン制御 / プロトン輸送 |
研究実績の概要 |
本申請は,申請者がこれまでに開発した電気化学式バイオトランスデューサを用いて溶液中ないしは電極表面のpHを制御することで,生きたミトコンドリアの膜内外で生じるプロトン濃度勾配を外から制御し,それに伴うATP合成を制御することを主たる目的とする.これら実現により,本研究がイオン(ここでは水素イオン)を介してデバイスと生体素材が双方向に情報伝達できる革新的インタラクティブバイオ界面を創出する礎になると,申請者は考えている. 申請者が提案する電気化学的pH制御システムおよびミトコンドリア中ATPの合成制御の研究計画は,29年度において,各素子の基本性能の向上と集積化によりpH制御システムを改善させることを主たる目的とし,30年度において,ミトコンドリアの操作技術およびATP合成などの生体機能を制御することで完成させる予定である.29年度において,既にオール有機物で構成される電気化学的pH制御システムの開発およびこれらpH制御技術を用いたミトコンドリア内ATP合成制御を実現させることに成功しており,順調な成果を得ていると,申請者らは考えている.現在,これら成果をまとめるべく,国際論文として著名な海外雑誌に投稿中である.ミトコンドリア内ATP合成は,そのプロセス過程(イオン・電子制御)に医学的,工学的な関心が高まっており,本研究はミトコンドリアの基礎的知見を工学分野から発信できると言える.さらに,多くの生体はpHに応じてその反応が変化するため,申請者らが開発した電気化学式バイオトランスデューサと組み合わせることで,プロトンを介して生体反応を制御できることが予想される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者が提案する電気化学的pH制御システムおよびミトコンドリア中ATPの合成制御の研究計画は,29年度において,各素子の基本性能の向上と集積化によりpH制御システムを改善させることを主たる目的とし,30年度において,ミトコンドリアの操作技術およびATP合成などの生体機能を制御することで完成させる予定であったが,29年度において,オール有機物で構成される電気化学的pH制御システムの開発およびこれらpH制御技術を用いたミトコンドリア内ATP合成制御を実現させることに成功した. これまで申請者らの研究では,溶液中のプロトン(H+)と親和性の高いパラジウム金属電極を用いてきた.しかし,パラジウムは希少金属であり,また還元反応に高い電圧が必要なため,生体内での利用に適さなかった.そこで,生体適合性が高く,かつプロトンと優れた親和性を持つ導電性高分子(sulfonated polyaniline, SPA)を新たに開発した.スルホン基を有するポリアニリンは,モノマー(アニリン)とフルオロスルホン酸を含む混合溶液中で電気化学的に重合することで作製される.プロトン反応を引き起こす酸化還元電位は,±0.5V以下と低く,かつ,Pdなど金属電極と比べ副反応が圧倒的に少ないことが分かった.さらに,本有機ptrotode電極を用いることで,10mM Tris-HCl緩衝液のpHを電気化学的に制御することにも成功した. 本研究で使用したミトコンドリアは,純度や活性の高い動物(ブタ)の心臓から抽出したものであり,植物のジャガイモなどから単離したものと比較して約100倍活性が高い.ここでは,先ずSPAマイクロ電極上にミトコンドリアを吸着させ,電気化学的に電極周辺のpHを制御することで,それに付随してミトコンドリア内pHの変化およびATP合成制御が可能かどうかを確かめた.
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今後の研究の推進方策 |
29年度において,細胞より単離したミトコンドリアから生成されるATP合成を電気化学的に制御することに世界で初めて成功した.平成30年度は,よりチャレンジな試みをしたいと考えており,その詳細を以下に記載する. ATP合成は,NADH酸化による電子輸送とプロトン濃度勾配によるイオン輸送の二つが重要であり,とりわけ電子輸送効率の低下は活性酸素生成など体に害を及ぼす酸化ストレスを引き起こすことが知られている.30年度は,電気化学的pH制御によって変化するミトコンドリア内の電子・イオン輸送を解析する新たなチャレンジを試みる.さらに,細胞内に存在するミトコンドリアのATP合成を申請者らのpH制御システムを使って直接制御する取り組みも行う.これは,現在,単離したミトコンドリアを用いて実験しているが,単離ミトコンドリアは1時間程度で失活することから,機能のより詳細を解析することが困難であることと同時に,細胞内でのミトコンドリアの振る舞いを調査することが必至だからである. 一方,電気化学的なpH制御を電極で行う場合,バッファー濃度と電極の表面積の関係を明らかにすることは重要である.そこで,様々な緩衝液においてもpH制御が可能であること,また,カーボンナノ微粒子やナノチューブを被覆することで比表面積を増加させ,pH制御システムの性能を改善する取り組みも行う.ナノ微粒子などを修飾した電極はナノ・マイクロ構造体が三次元に集積したものであり,その際,構造体内部へ如何にプロトン輸送を妨げることなく作製するか?がカギと言える.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた論文掲載費や実験材料費を次年度に使うことになったため.
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