研究課題/領域番号 |
17K19045
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
石井 智 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (80704725)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 熱放射 / 赤外線 / 波長選択光吸収 |
研究実績の概要 |
本研究で、ナノ構造によって熱放射を任意に制御し、最終的には狭帯域熱放射体に熱放射の集光などの機能を付与することを目指すものである。その基盤となるのが任意の波長で狭帯域な熱放射を実現できるナノ構造を設計し実際に作製することである。従来の研究では二次元や三次元の微細構造が用いられてきたのに対し、本研究ではより作製のしやすい一次元構造でも狭帯域熱放射が実現できることを示してきた。今年度は昨年度の申請者が提案した構造を改良し、熱放射の起源となる金属薄膜を敢えて厚くし、誘電体多層膜の下部に配置する設計とした。その結果、更なる狭帯域化と放射率の構造に成功した。本構造は今後の熱放射を生かした構造の基礎をなりある有用な結果である。 先述の構造も含め、熱放射と言うと試料から放射される熱放射を意図する場合がほとんどである。これは、暗に試料の方が周囲より高温であることを前提としている。他方、試料が周囲より低温になると、試料が周囲からの熱放射を受けることになる。このようなことが実際に起きるのかを確認するために、光起電力素子を用いて簡単な測定を行った。その結果、周囲と素子の温度差に対応して起電力が得られ、温度差の符号に対応して起電力の符号が反転することが分かった。試料の方が高温の場合はよく知られた熱光起電力発電であるが、試料の方が低温の場合は熱放射発電が起きていることになる。熱放射発電が出来ると、排熱による発電など熱放射の新たな機能につながる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は熱放射させる材料として、透明導電性酸化物を検討していた。透明導電性酸化物はドープ量が高くなると、金属のように負の誘電率を持つことができ、且つ金属より損失の小さい材料になることが見込まれている。今年度は透明導電性酸化物薄膜の作製条件の最適化を行っているが、年度内には目標としているような特性は得られなかった。一つの要因として成膜に使うスパッタ装置を変更したことが挙げられる。スパッタ成膜するチャンバーのベースの真空度が従来装置と大きく異なるため、従来の成膜条件では従来の特性が得られないのが現状だ。来年度も引き続き成膜条件の最適化を進めつつ、難航するようであれば別の材料の使用も検討する。 その一方で、予定に入っていなかった成果も得られた。前項にも記述した通り、より狭帯域で放射率の高い構造の開発およびその実験実証と熱放射の利用にかかる基礎データの取得である。これらの成果も、来年度の熱放射の機能開拓に結び付けていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、透明導電性酸化物の成膜に苦戦し時間を要した。そのため、来年度は早い段階で集中的に透明導電性酸化物のスパッタ製膜の作製条件の検討を行い、複素誘電率の実部が負になり虚部ができるだけ小さい値が得られるようにする。具体的には、ガスの流量比やガスの総流量、及び成膜後のアニール処理を系統的に行っていく。夏ごろを目安に、一度見極めを行い、本提案実現のために透明導電性酸化物以外の材料をしようするかも含めて検討する。 狭帯域を得られる熱放射構造に関して、今年度末に新たな構造の検討した。本構造はこれまで申請者らが取り組んできた擬似タムモードを使った方式とファブリペロ共振器を組み合わせたような構造で、作製した試料の反射率は深く狭帯域のディップが得られたことから狭帯域の熱放射が得られる可能性の高い構造である。また、この構造は熱放射の起源となる金属に比較的光損失の大きな材料を使えることが分かってきた。高融点材料は金属・セラミックスを問わず光損失が大きいことが知られているが、本構造は使用材料の許容範囲を広げる観点からも注目している。来年度に本構造を持つ試料の放射率の測定を行う。 狭帯域な熱放射構造への機能付与としては、熱放射を集光するような構造の実証を目指して、段階的に進める。手順としては、狭帯域な熱放射をもつ試料にレーザー直接描画装置を用いて、2次元のサブ波長構造を作製する。試料の熱放射の三次元プロファイルを得るために、顕微鏡付FTIR装置を改良し、取得画像を独自のコードで読み込むことで三次元プロファイルを作成し、集光の半値幅などを評価していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料を顕微鏡のステージ上で数百度まで加熱できるステージが当該研究では必要である。今年度当初購入していたものより安価なものを見つけてそれを購入したため。
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