研究課題/領域番号 |
17K19046
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
足立 智 北海道大学, 工学研究院, 教授 (10221722)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | 核スピン / 電子スピン / 自発分極 / 核スピンエンジニアリング |
研究実績の概要 |
近年,スピンの重ね合わせ状態を利用して計算を行う量子情報処理分野の研究が盛んである.このようなスピンの任意操作も単一スピンから複数のスピンへと研究対象がシフトしてきている.そのような状況では操作対象のスピン群とその周りの環境(電極,フォノン,核スピン集団等)との相互作用のより深い理解だけでなく,その環境の制御(リザーバエンジニアリング)が一層重要となってくる.本研究では,単一QD の核スピン集団と光注入した1個の電子スピンとの相互作用のこれまでの研究成果を活かして,このリザーバエンジニアリングの多くの課題の1つとして,QD を構成する原子核スピン集団の分極率をその自発分極などを利用して100%にすることを目的とする. 今年度は採択決定の7月から研究を開始し,スピンフリップ支援吸収・発光過程の確認と効率的励起条件の決定の準備のために,負の荷電励起子が強く観測されるQDを探索すると共に測定に必要な2色ポンプ-プローブ分光システムを構築・整備した.InAs/GaAs量子リング構造(QR)の試料で強い負の荷電励起子が観測されるQRを見出したので,それの面直核磁場双安定性(いわゆる核スピンスイッチ現象)を利用して電子・正孔の符号まで含めたg因子を測定した.その結果,これまで良く我々が研究してきたInAlAs QDとは電子g因子の符号が逆で,正孔g因子の符号が同じという結果を得,その測定手法の明快さと新規性をまとめてAPLに投稿した.またハンル効果によるスピン寿命測定において,通常のローレンツ型が大きく逸脱したハンルカーブを測定した.これは面内核磁場形成を示唆する結果で,形成モデルを構築しその形成機構を議論した[Phys. Rev. B 97, 075309/1-8 (2018)].これもリザーバエンジニアリングの1つである核磁場の方向制御に繋がる結果である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は実験系の整備と負の荷電励起子が強く観測される量子構造の探索,およびその量子構造の符号まで含めた電子・正孔g因子,核磁場形成の有無を効率良く行えた.その過程で,予想外の成果を2つ得たので,それぞれ論文にまとめ投稿した(1件は既に掲載され,1件は査読中).テーマの進捗状況は,構築した2色ポンプ-プローブ分光システムでスピンフリップ支援吸収・発光過程を確認する段階に入っており,ここまでほぼ計画通りに進んでいる.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,励起強度や離調の程度を微細に変え,スピンフリップ支援吸収・発光過程の効率的励起条件を探索する.今年度見出したInAs QRは,発光線幅が狭いのは好都合だが,電子g因子が大きくかつ負であるので,大きな核磁場が形成されたとき,発光ピークのゼーマン分裂が電子準位のゼーマン分裂分だけ狭くなる.このため,観測がより難しくなる傾向になることが判明したことと項目2の単一QDのODNMRを考えるとInAlAs QDの方が結果に新規性があるため,電子g因子が逆符号のInAlAs QDでも負の荷電励起子が強く観測されるQDを探索すると同時に,nドープしたQD試料を成長して観測がより簡単な方向になるように努力する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
H29年度予算の内,\4,302が未使用金として残った.研究遂行に必要な物品を購入した残金であって,予算はほぼ予定通りに執行できたと考えており,次年度を繰り越せることを考えると無理に使用する必要はなく,特段の理由は無い.この未使用金はH30年度の配分予定金と合わせて研究テーマ遂行に予定している液体ヘリウム料金,位相板などの光学素子の購入,および学会発表旅費として使用する.
|