研究実績の概要 |
水素の存在が分子の物性に及ぼす影響は大きく、また分子の集合体の形成にも水素結合という形で構造形成に非常に重要な役割をはたす。本研究では、水素化されたテルビウム・2層ポルフィリン錯体(2, 3, 7, 8, 12, 13, 17, 18-octaethylporphyrin (OEP)-TbIII double-decker complex, (TbIII(OEPH)(OEP))を用いて水素原子の脱離による分子磁性のスイッチを実空間で示した。先行研究でTbIII(OEP)2は単一分子磁石であるが,その窒素原子に水素原子を付加した場合にTbIII(OEP)2分子は単一分子磁石の性質を失うことが示されており、また同時にリガンドの不対パイ電子も消滅する。実験ではTbIII(OEPH)(OEP)分子の単分子膜を作成し、1.5 Vのエネルギーを持つトンネル電子を注入した。その結果、ターゲット分子のみが明るい分子に変化した。第一原理計算と組み合わせることで、これがトンネル電流によって誘起された脱水素によって作成されたTbIII(OEP)2分子であることが示された。そのスピンの挙動は、分子のスピンによって形成される近藤共鳴を検知することで調べる手法を用いた。近藤共鳴は孤立したスピンがあるとき伝導電子が、そのスピンを遮蔽しようとフェルミレベルに高い状態密度を作る現象である。水素化されたTbIII(OEPH)(OEP)分子のトンネル分光スペクトルではフェルミエネルギー付近には構造が現れない。脱水素化後の分子においては明瞭な凹型のディップが観察できる。これは分子スピンによって形成される近藤共鳴を観察したものであり、脱水素化で単一分子磁石の挙動が復活したことを示している。この実験は近藤状態の検知で水素の明瞭な検知が可能であることを示した。
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