研究課題/領域番号 |
17K19050
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 陽太郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30631676)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 光物性 / 磁性体 |
研究実績の概要 |
本課題では、エレクトロマグノンと呼ばれるテラヘルツ帯の磁気共鳴を用いたスピン流生成を目指している。そのための研究項目として「高強度・高安定テラヘルツ光源の構築」、「スピン流検出のためのデバイス作成とその最適化」、「エレクトロマグノンの緩和プロセス解明によるスピン流生成の効率化」を設定した。 テラヘルツ帯の磁気共鳴を励起するための光源開発を行い、1 THzを中心としたスペクトルと、繰り返し1 kHzでパルス当たり1.5 マイクロジュールのエネルギーを持つテラヘルツパルスを得ることに成功した。次に、短パルス光源によるスピン流生成の計測を行うため、白金のスピンホール効果によりスピン流を検出するデバイス作成し、効率よく信号を検出するための実験系の構築を行った。時間幅が数ピコ秒というテラヘルツパルスによる信号を電圧検出する場合、従来のナノボルトメーターやロックイン検出法では十分なSN比が得られない。白金の蒸着面にテラヘルツパルス光を照射することで発生するスピンゼーベック効果を利用し、スピン流検出の最適化を行った。いくつかの手法を試した結果、電圧増幅した信号をボックスカー積分器で積算することで、パルス光源によるスピン流生成の信号を効率よく計測できることを確かめた。 次にエレクトロマグノン共鳴をテラヘルツパルスで励起することでスピンポンピングの測定を行った。この結果、テラヘルツ光の偏光依存性からエレクトロマグノン共鳴がスピン流生成に寄与することを確認したが、同時にプラチナ薄膜の加熱によるスピンゼーベック効果もスピン流生成に寄与していることが明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、主に高強度・高安定テラヘルツ光源の開発と、デバイス作成によるスピン流検出法の構築を目的として研究を進めた。平均出力が1.5 mW、パルス当たりのエネルギーが1.5 マイクロジュール、1 THz付近にピークを持つ光源を構築し、長時間安定な出力を得た。また、テラヘルツ帯にエレクトロマグノンの共鳴を持つY型ヘキサフェライトに白金を蒸着することで、逆スピンホール効果によるスピン流が観測可能なデバイスを作成した。更にこのデバイスとテラヘルツ光を用いてスピン流生成の信号検出まで研究を進めることができたことから、おおむね順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
エレクトロマグノンを共鳴的に励起することで生成されたマグノンスピン流は、スピントロニクスで利用されるスピンホール効果を用いた手法とは別に、磁気光学効果により観測することも可能である。特に、光学的な手法を用いることでピコ秒領域の超高速磁化ダイナミクスの観測が可能となる。平成30年度は超高速分光の手法により磁化ダイナミクスを観測することで、テラヘルツ光によって生成されたマグノンの緩和過程を明らかにする。スピン流生成に用いたものと同じく、巨大なエレクトロマグノン共鳴を持つY型ヘキサフェライトを試料とした測定を行う。この結果と、逆スピンホール効果による起電力の信号とを比較することで、エレクトロマグノンを介したスピン流生成の全体像を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、磁気光学効果を用いたポンプ・プローブ測定系の構築を進めるが、装置の構築を開始したところ、当初の計画よりも素子・光学部品等で多くの費用が発生することが見込まれた。このため、前年度計上していた予算の一部を今年度に繰り越し、今年度の物品費に充てることとした。
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