研究課題/領域番号 |
17K19051
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 一隆 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (20302979)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 量子メモリ / 光学フォノン / ダイヤモンド / フェムト秒レーザー |
研究実績の概要 |
コヒーレンスを利用した新しい量子技術では、室温で動作する量子演算機構の開発が必要とされている。本研究の目的は、ダイヤモンドの光学フォノン量子状態を用いることで、室温において40THzで動作する量子メモリ技術を開発することである。具体的には、位相制御したフェムト秒パルス列を用いることで、ダイヤモンドの光学フォノン量子状態への情報の「書き込み」「制御」「読み出し」を実現する技術開発を目的とする。 平成29年度は、サブ10fsの近赤外パルスを用いたポンプ・プローブ型の過渡透過光強度測定を行い、透過光強度に25fs周期の振動を観測した。これはダイヤモンド光学フォノン(40THz)によるものと同定できた。このことは、ポンプパルスによって光学フォノンを位相を揃えて励起し、その振動の様子をプローブパルスの透過光強度変化として検出したものであり、光学フォノン量子状態への情報の「書き込み」と「読み出し」を行ったことに対応する。また、マイケルソン干渉計を用いて位相ロックしたパルス対としてダイヤモンドの励起を行った。ポンプパルス対の時間間隔を250fs付近で300asステップで変化させながら、過渡透過光強度測定を行った。その結果、光学フォノンの振幅強度をコヒーレント制御することができた。ポンプパルス対が十分に離れた条件(230fs-280fs)でのコヒーレント制御過程を、電子2準位系と変位した調和振動子からなる系を考え、量子リウビル方程式を摂動計算すること定式化することができた。実験的にはポンプパルス対が重なった時間領域の計測もできるようになり、その際にマイケルソン干渉計を出たあとのポンプパルス光の光学干渉を同時計測できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近赤外レーザーパルス(中心波長790nm、出射口でのパルス幅約8fs)を用いた、ポンプ・プローブ型過渡透過光強度測定を行い、ダイヤモンド光学フォノンの40THz振動の実時間観測が安定して行えるようになった。この過程は、フォノン量子状態への情報「書き込み」と「読み込み」に対応する。また、パルス光をマイケルソン干渉計を用いて、位相ロックしたパルス対にすることで光学フォノンのコヒーレント制御実験できるようになった。特に、マイケルソン干渉計のアームを自動制御して過渡透過光強度変化を測定できるようなプログラムを作成した。これにより、120fs以上の長時間に渡って、300asの時間ステップで遅延時間を変えながら測定することが可能になった。また、マイケルソン干渉計出口でパルス対の光学干渉を同時測定できるようにした。この干渉パターンとレーザーオシレータ出口で測定した波長スペクトルおよびフリンジ分解自己相関波形を比較し、チャープを無視した仮定から光電場波形を推定できるようになった。また、チャープの影響を調べるために第二次高調波発生を行い、そのスペクトルを分光器で観測できるようになった。既存の分光器をもちいて、この波長領域を検出できたため当初予定の新規分光器導入は行わずにすんだ。ポンプパルス対が十分に離れた条件(230fs-280fs)では、光学フォノン振幅強度をパルス対間隔を変えることで制御できた。また、自動測定プログラムによりパルスの重なった時間領域での計測もできるようになった。フォノン励起の際におこるラマン散乱光の検出の実験にも着手した。 理論研究では、電子2準位系と変位した調和振動子からなる系を考え、量子リウビル方程式を摂動計算すること定式化することができた。特に、フォノン生成過程だけでなく、ヘテロダイン検出までを含めた理論を構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ポンプパルス対が重なった時間領域まで含めた、ダイヤモンド光学フォノンのコヒーレント制御の実験を引き続き行い、実験の再現性を確かめるとともに制度の高い計測データを取得する。特に、ポンプパルス対制御の時間ステップを100asまで小さくすることで、干渉縞を詳細に分解して計測できるようにする。また、透過光計測時に狭帯域光学バンドパスフィルターを用いた計測を行い、ヘテロダイン計測時における光干渉の影響を調べる。ラマン光検出に関しては、光学バンドパスフィルターとファイバー分光器を組み合わせることで励起時のストークス光検出を行い、フォノンと量子もつれ状態にあるフォトンの検出を試みる。また観測時におけるアンチストークス光検出を行い、励起されたフォノン分布の変化を調べる。 パルスの評価として、ポンプパルス対の1次光学干渉に加えて、非線形光学結晶を用いたフリンジ分解自己相関計測を行う。さらに、分光測定を組み合わせることでダイヤモンド照射直前のパルス光電場を求める。 理論研究では、ポンプパルス対が重なっている条件について重要になる光学遷移過程の場合を電子フォノン結合量子系の4準位モデルに取り込む。また、実験から推定したパルス光電場波形を用いた数値計算を行い、実験結果とのより詳細な比較を行い、フォノン生成における光電場効果の影響についても調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた第2次高調波のスペクトル検出は既存の分光器を流用使用することで実行でき、当初計画を効率的・効果的に進めた結果、直接経費を節約できたため、平成30年度の研究推進に使用することにした。特に、サブ10fsパルスのチャープの影響を抑えるための薄型非線形光学結晶の購入とその保持光学系の作成を行うことを計画している。その際に第2次高調波光パルスの高速取り込みのために、400nm近傍に感度を持つGaP光検出器と光バンドパスフィルターを導入する。また、プローブ過程における光応答の詳細を調べるために、過渡透過光計測と同時に過渡反射光計測を行いことを計画しており、その光学系部品と800nm近傍に感度のある光検出器の増設を行うことを計画している。計測した光電場プロファイルを取り込んで理論計算を実行するためには、これまでに比べて大規模なデータを処理することが必要である、そのために解析ソフトと計算機の導入を計画している。さらに、平成29年度に得られた成果を論文発表するあたり、一般にも広く成果を伝えるためにオープンアクセスジャーナル(Scientific Reports)に投稿しており、その出版経費に使用する計画である。
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