ダイヤモンドの光学フォノンは高い振動エネルギーを持ち室温での擾乱を受けづらいことから、ゼロフォノン状態と1フォノン状態を室温において40 THzで動作する量子メモリとしての応用することが期待されている。本研究では、光学フォノン振動周期よりもパルス幅の短い、サブ10 フェムト秒の近赤外パルスを用いたポンプ・プローブ計測を行い、ダイヤモンド単結晶の40THz光学フォノン量子状態を励起(書き込み)し、透過光強度のポンプ・プローブ時間遅延に対するコヒーレントな振動として検出(読み出し)した。また、ポンプパルスを特製のマイケルソン型干渉計を用いて、位相制御したポンプパルス対を作成し、ダイヤモンドに照射することで、生成したフォノン量子状態の干渉により、振動振幅をコヒーレントに制御した。励起パルス対が重なるポンプポンプ時間遅延領域においては、フォノン振幅強度に光パルスの干渉の影響が観測された。この光干渉の影響は、ポンプパルス対が並行型配置にしても観測され、ダイヤモンド試料内部での干渉であることが分かった。 ダイヤモンド光学フォノンのコヒーレント制御を解析するために、振動量子状態2準位と電子状態2準位から構成される4準位モデルを用いた量子力学理論の構築を行った。密度演算子形式の運動方程式を2次摂計算する形式化を行った。透明領域での光制御であるため、回転波近似を用いないで大きな離調を取り扱うことができるようにした。またサブ10 フェムト秒パルスに対応するために、任意のパルスエンベロープ形状およびチャープ効果を取り扱えるようにした。こうした工夫により、ダイヤモンド光学フォノンのコヒーレント制御の実験結果を非常によく再現することができ、構築した理論の有効性を確認した。
|