研究課題/領域番号 |
17K19055
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮内 雄平 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (10451791)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 遷移金属ダイカルコゲナイド / 励起子 / バレー緩和 / バレートロニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、(1)バレー分極度の温度依存性の解明、(2)バレー分極度のキャリア密度依存性の解明、(3)励起子のバレー依存輸送特性の解明について実験的な研究を行い、最新の理論予測との比較から遷移金属ダイカルコゲナイド単層膜におけるバレー分極緩和メカニズムを包括的に解明することを目的としている。29年度はまず、項目(1)の研究として、代表的な遷移金属ダイカルコゲナイド超薄膜である単層WSe2において、バレー分極度、バレー励起子の有効寿命の温度依存性を同時に測定することで温度ごとのバレー緩和時間を見積もり、それを理論と比較しつつ解析を行うことで、励起子バレー分極の緩和メカニズムの検討を行った。また、理論的に予測される励起子バレー分極緩和時間の励起子スペクトル線幅への依存性を調べるため、励起子密度を制御することで励起子線幅を変調し、励起子線幅とバレー分極度の相関を調べた。バレー分極度の励起光エネルギー依存性の測定も行い、励起子のバレー分極度が励起光エネルギーに依存し、励起子励起状態の直接励起によって、比較的高いバレー分極度が得られることが明らかとなった。これらの結果について、試料にあらかじめドープされているキャリア密度のもとでの電子正孔交換相互作用を通じた励起子バレー緩和機構を考慮した解析を進め、励起子バレー分極緩和時間の温度依存性や、励起子バレー分極度の励起子密度依存性や励起光エネルギー依存性を包括的に理解・予測できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、励起子バレー分極度の温度依存性や励起子密度依存性、励起光エネルギー依存性などを包括的に理解・予測することが可能となっており、励起子バレー分極緩和メカニズムについて一定の理解が得られている。また、研究項目(2)バレー分極度のキャリア密度依存性の解明、についても、試料作製における工夫によりデバイス作製において課題となる試料劣化の問題がクリアできつつあり、(3)励起子のバレー依存輸送特性の解明、についても、測定系の構築が順調に進んでいる。これらの理由により、研究は順調に進んでいると判断し、「概ね順調」とした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに、主に単層WSe2における励起子バレー分極緩和機構について研究を進め、基本的な励起子バレー分極緩和メカニズムについて、予定通り一定の理解を得ることができた。今後は、これまでに得られた知見を基礎として、単層WSe2に加え、他の様々な遷移金属ダイカルコゲナイド(MoS2, WS2等)の単層膜における励起子や荷電励起子(トリオン)のバレー分極緩和メカニズムの検討を進めるとともに、これまでに技術検討と装置構築を進めている研究項目(2)バレー分極度のキャリア密度依存性の解明、(3)励起子のバレー依存輸送特性の解明についての研究を引き続き推進していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
第1年度は、現有設備を用いて単層WSe2における励起子バレー分極緩和メカニズムの検討を進めつつ、研究項目(2)バレー分極度のキャリア密度依存性の解明、(3)励起子のバレー依存輸送特性の解明を行うための技術検討と装置設計・仕様の検討を進めた。技術検討、装置仕様検討の段階においては、無駄な物品の購入を極力避けるため、まずは現有設備の部品等を逐次流用して、最適な部品の仕様を確かめるための各種予備検討を行ったため、次年度使用額が生じた。今後、これまでの予備検討結果を踏まえて、恒久的に装置に組み込む部品類の購入代金や、成果発表のための旅費等として使用予定である。
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