研究課題/領域番号 |
17K19061
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
河裾 厚男 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 上席研究員(定常) (20354946)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | グラフェン / 六方晶窒化ホウ素 / トポロジカル絶縁体 / スピン / ポジトロニウム / 陽電子 / 表面 |
研究実績の概要 |
スピン偏極表面ポジトロニウム分光法を用いて、強磁性CoとNiによるグラフェンまたはh-BNへの磁気近接効果について調べた。その結果、グラフェンとh-BNの何れもスピン偏極していること、Co基板の方がNi基板よりも高いスピン偏極率を与えること、基板が同じであればグラフェンとh-BNに対するスピン偏極率は大差ないこと、が知られた。第一原理計算を行ったところ、グラフェン、h-BN何れもCoやNiと強く混成するため、前者ではDiracコーンが破壊され、後者ではバンドギャップが消失し、CoやNiの電子状態に凌駕されること分かった。また、ポジトロニウム生成領域において陽電子と電子の波動関数の重なりを考慮したところ、スピン偏極率の実験値を定量的に説明することができた。CoやNiを用いる限り、Diracコーンを維持した状態でグラフェンにスピン注入すること、及び、h-BNの電気的絶縁性を維持することは、何れも困難であり、デバイス開発ではこれらの事情を考慮すべきである。上の結果は、米国物理学会誌(PRB97 (2018)195405)に論文掲載された。 上述のCoやNiよりも強い磁化を持つFeによるグラフェンへの磁気近接効果を調べた。その結果、まずCoやNiと比較すると、Feを基板とした場合にはポジトロニウム生成量が4分の1程度しか得られないことが分かった。これは、Feとグラフェンの接合界面に空隙が生じていて、陽電子がそこにトラップされてしまうためと推測される。得られたスピン偏極率は概ねCo基板の場合と同程度で、期待以上には増強しなかった。これは、上述の接合界面の影響により、グラフェンとFeの間で強い混成が生じないためであると推測された。現在、理論解析を進めている。 前年度に構築した試料冷却ステージを使って、トポロジカル絶縁体のBi2Se3に電流誘起スピン偏極効果の観測に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強磁性Fe、Co及びNiとの接合によるグラフェンとh-BNのスピン偏極効果について、系統的な実験結果が得られている。また、ポジトロニウムにより得られる表面スピン偏極の定量的な理論解析が可能になってきている。トポロジカル絶縁体表面も含めて、本手法を様々な系に適用する見通しを得た。Physical Review誌への論文掲載に至った。
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今後の研究の推進方策 |
グラフェンと強磁性体の接合系に関する実験と理論解析が進んできている点に鑑みて、この方面の研究をさらに展開する計画である。ここまでの研究で、グラフェンをコバルトやニッケルと接合すると、Diracコーンが消失することが明らかになったが、予備的な理論計算ではグラフェンを二層にすることで、Diracコーンへの影響が抑えられることが示唆されている。他の強磁性基板としては、Co基のハーフメタル系ホイスラー合金が挙げられる。また、SiC表面上にグラフェンをエピタキシャル成長し、強磁性元素をインターカレーションした際のスピン注入効果の観測などが考えられる。 電流誘起強磁性効果については、低温下での測定が可能になったことで、Bi系のトポロジカル絶縁体やSmB6などの強相関系の実験を展開して行く計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
グラフェン系表面の研究が進捗したためこちらを優先し、スピンホール系表面とBi系トポロジカル絶縁体試料の購入を次年度に回した。次年度はこれらの試料を購入に加えて、SiC表面上のグラフェンへの強磁性元素インターカレーションの実験を行うためにSiC基板などを購入する予定である。
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