研究課題/領域番号 |
17K19065
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
末光 眞希 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (00134057)
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研究分担者 |
吹留 博一 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (10342841)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | グラフェン / 炭化ケイ素 / 擬自立化グラフェン / マイクロ波加熱 |
研究実績の概要 |
シリコン結晶内電子の100~1000倍という驚異的な面内移動度を示すグラフェンであるが、グラフェンとこれを担持する基板との相互作用が強いために、グラフェン本来のきわめて優れた物性がデバイス特性として引き出せていない。とくに実用化グラフェンFET用として期待の高い炭化ケイ素基板上エピグラフェンでは、炭化ケイ素基板とエピグラフェンとの界面に存在する界面層によってクーロン散乱が発生し、移動度が減少することが知られている。 本年度は炭化ケイ素基板上EGにマイクロ波熱処理を初めて適用し、その結果、同法により擬自立化エピグラフェン(Quasi-free-standing Epitaxial Graphene:QFSEG)が簡便に形成可能であることを実証した。QFSEGの形成は低速電子線回折(LEED)、断面透過電子顕微鏡(XTEM)、ラマン散乱分光により確認された。このうちラマン散乱分光からは、同処理により、それまでの単層グラフェンから2層グラフェンに欠陥の導入なしに変化することが明らかとなったが、これは処理前の界面層がSiCから分離されてグラフェンに変化したと考えることで合理的に解釈される。ラマン散乱分光からはさらにグラフェンの圧縮歪が40%減少することが明らかとなったが、これは界面層の消失により、グラフェンとSiCの間の強いσ-結合が弱いファンデアワールス結合に変化したことを意味する。一方、光電子内殻分光の結果からは、炭化ケイ素表面が酸化されていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初の予想どおり、マイクロ波加熱により、SiC基板上EGが化学的に分離され、処理前の単層グラフェンが2層グラフェンへと変化すること、その際欠陥導入がないことを、LEED、XTEM、ラマン散乱分光により明瞭に示すことに成功した。この成果は5-Year Impact Factor 6.834 のCarbon誌に掲載されたことに示されるように、大きな成果である。 一方、界面層の消失機構は当初期待していた熱膨張係数の違いによる化学結合の開裂ではなく、SiC基板表面の酸化によるものであることが明らかとなった。またマイクロ波熱処理後、EGの伝導型がそれまでのn型からp型に変化し、キャリア濃度も3倍に増加した。その結果、キャリア濃度増加によるimpurity scattering増加のため、移動度は1500から650 cm2/Vsへと低下した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はマイクロ波熱処理を利用して簡単にQFSEGの形成が可能なことを物理的、化学的に証明した。しかし電気的特性は改善されなかった。これは大気中でのマイクロ波加熱により、SiC界面が酸化されたためと考えられる。今後はマイクロ波加熱条件(基板、パワー、時間、雰囲気など)を変化させ、電気特性に改善につながる結果を得たいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究は堅調に推移し、当初目的であるグラフェン/炭化ケイ素基板界面の界面層をマイクロ波加熱により除去することに一度の実験で成功した。そのため当初見込んでいた装置改造経費を使用することなく当初目的を達成した。来年度は、次年度使用額と当初予定次年度請求額170万円とを合わせて人件費を拡充し、残された課題である電気特性の改善に注力する。
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