研究課題/領域番号 |
17K19073
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
一柳 優子 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (90240762)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ微粒子 / イオン化支援機能 / 質量分析 |
研究実績の概要 |
本研究では磁気ナノ微粒子を用いて、従来では検出不可能であった質量領域におけるイオン化を実現させるとともに、質量分析スペクトルの高分解能化をはかる。さらにはすい臓がん細胞の高解像度の質量分析イメージングを実現し、がんの原因となる物質とその分布を明らかにし、新たな病理分析方法を提案する。 優れたイオン化支援機能を持つ磁気ナノ微粒子を開発し、高分解能で革新的な生体組織の分析と分布を同時に実現する。 当該年度には、イオン化支援機能を持つ磁気ナノ微粒子を作製するために、先行研究で見いたした鉄の酸化物に他元素をドープすることを試みた。3d遷移金属のドープではあまり効率のよい結果が得られなかったため、光触媒にヒントを得てチタン酸化物TiO2にアミノ基を修飾した機能性ナノ微粒子の作製に取り組んだ。その結果、粒径約3nm程度の単相のアナターゼ型TiO2であることが確認された。 本微粒子のイオン化支援機能を確かめるため、検体として薬剤であるアスピリン(MW=180.2)、 コルヒチン(MW=399.4)を選んだ。そしてマトリックスとして作製したナノ微粒子と市販のマトリックスCHCA(α-cyano-4-hydroxycinnanic acid)を用いて質量分析(MS)スペクトルを比較した。その結果、全ての検体のMS測定の結果より、従来のマトリックスではMSスペクトルの検出が出来ず、今回開発したSiO2包含TiO2ナノ微粒子とアミノ基を修飾したものではMSスペクトルを得ることができた。マトリックスを加えない場合は、検体は検出できなかった。 さらに、SiO2を除去したものではMSスペクトルが得られないことがわかった。このことから、イオン化支援機能はSiO2層が関係していることが新たに明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はイオン化支援機能の高い、磁気ナノ微粒子を用いた質量分析用マトリックスを開発することを目的とした。これまでに鉄酸化物系微粒子にガンマAPTESを修飾して機能化することで、イオン化支援能が向上した実績があったため、鉄(Fe)以外の3d遷移金属を用いて同様の、あるいはそれ以上の効果が現れることを期待し、微粒子の作製を試みた。しかしながら、予想と反して、あまり顕著な効果が得られないことがわかった。 そこで、光触媒にヒントを得てチタン酸化物を用いることを考えた。これまでの製法を応用し、金属塩化物の金属部分をチタンに選び、湿式混合を行い、アモルファスSiO2に内包されたTiO2ナノ微粒子を新たに開発することができた。そして、この微粒子が薬剤等の比較的低分子の検体を、イオン化することが可能なことを見出した。さらに、微粒子を覆うSiO2の層の厚みの違いにより、イオン化支援能が変化することも新たに発見した。 イオン化のメカニズムは未だ明らかになっておらず、多角的な思考と分析が必要だと思われるが、未知の領域を開拓する意義が大きく興味深い。
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今後の研究の推進方策 |
1.イオン化のメカニズムを探りつつ、多種のナノ微粒子を設計し、広い分子質量領域におけるイオン化が可能な微粒子を開発する。低分子領域の検体の検出は、一般に、マトリックス由来のスペクトルがノイズとなり検出が難しい。H29年度は本微粒子により、比較的低分子の薬剤を明瞭に検出することができたが、繰り返し実験を行い再現性も確認する。 2.膵癌細胞にガラクトシルセラミド(GalCer)という糖質が高濃度で存在するという報告もあるため、このGalCerに注目し、まずは分子量820(M/w)付近のスペクトルを高分解能で得ることを目標にする。 3.GalCerについては、何種類かの分子量が存在するため、広い質量領域での検出が必要になる。磁性イオンをドープしたり、光吸収スペクトルを分析したりしながら、微粒子のイオン化支援能を向上させる。膵癌の専門の研究者とも相談しているが、トリガーとなる可能性が考えられる物質を選出し、それらの分子を高分解能で検出し、原因を突き止めることを目標にする。
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