研究実績の概要 |
コバルト微粒子を含む微粒子が質量分析のマトリックスとして有効であるとの報告をヒントに、ナノサイズの磁性微粒子を用いて、高精度の質量分析が可能になるのではないかとの着想を元に手掛けた研究である。 昨年度までに、鉄塩化物とγ-APTESを用いて作製した微粒子が、高分子から低分子までの、広い範囲の質量分析スペクトルを1つのマトリックスで検出できた。今年度は、膵がんの関連物質に注目し、糖脂質の一種であるガラクトシルセラミド(GalCer)および、がんを予防する効果がある可能性を報じられている、L-システインを検出することを目標にした。 イオン化のメカニズムの解明につなげるために、検体側にも注目し、検体の種類や構造について分析した。SiO2に内容されたニッケルフェライト(NiFe2O4)微粒子を、粒径3.6, 4.0, 6.3, 8.8 nmの4種類の大きさに制御し、これらをマトリックスとして、薬剤であるColchicine (M.W.=399.4)、およびL-Cysteine (M.W.=121.1)の検出を試みた。市販のマトリックスDHBと比較したところ、本微粒子では顕著なイオン化支援機能が見られた。特に小さい粒径である3.6 nmのものはDHBの7倍近く高いS/N比を示した。さらに、この微粒子にアミノ基を修飾したところ、さらに劇的にS/N比が向上した。GalCerについても検出が可能であることが明らかになった。イオン化にはC-Nの結合など、検体側の分子の結合エネルギーが関与している可能性があることも考えられる。 また膵がんへ特異的に微粒子を導入させることも検討し、磁気微粒子にグルコースを修飾する試みも行った。
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