研究課題/領域番号 |
17K19074
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
劉 小晰 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (10372509)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 環境発電 / ナノ磁石 / MEMS |
研究実績の概要 |
①垂直磁化Nd-Fe-B薄膜素子の形成とその特性 平成29年度では、垂直磁化Nd-Fe-B薄膜形成ためのの二段階のプロセスの開発は成功した。第一段階では、室温で、スパッタ装置及び露光装置を用いて、非晶質Nd-Fe-B薄膜素子を作製する。第二階段では、レーザー真空熱処理の手法を用いて、基板表面のNd-Fe-B薄膜素子だけ結晶化させると共に、基板のSiNの熱処理によるダメージを最小限に低減できた。特に、Tbなど添加元素を用いて、面直方向保磁力24 kOe,面内方向保磁力ほぼ100 Oe以下と優れた垂直磁気異方性を有する薄膜の作製が成功した。これらの研究成果は2018年度IEEE国際磁気会議で発表した。 ②軟磁性FeCo MEMS素子形状、サイズに関する検討 本研究の目的を達成するために、極めて小さい保磁力並びに高い飽和磁化の有するFeCo磁心が必要になる。平成29年度において、CoNi下地層を用いて、1 Oe以下の保磁力を持つ薄膜の開発は成功した。更に、特殊な対向ターゲット式スパッタリングシステムを用いて、FeCo薄膜の面内異方性の付与が成功した。微細加工によるマイクロサイズのFeCo磁心の磁気特性の影響を面内マイクロカー顕微鏡、粉末図形法を用いて調べた。磁化回転及び磁壁移動と素子形状、サイズ、面内磁気異方性の影響を明らかにした。 ③ 磁気MEMS素子の電磁変換計算機シミュレーション 計算機シミュレーションを用いて、電磁気学、構造力学、変形など物理現象総合的に解析した。その結果では、柔らかい基板上のFeCo磁心がより効率高い振動エネルギーを電磁変換できることを示唆している。30年度では、これらのMEMSを形成して、電磁変換効率を測定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度において、薄膜作製、微細加工、計算機シミュレーションに関して、当初計画通りで実験、試作を行って来た。薄膜作製、微細加工に関して、当初計画通りの研究結果を得られた。当初計画では、硬磁性、軟磁性薄膜素子、高密度銅コイル、厚さ100 nm SiNのシリコン基板上のリソグラフィー技術は非常にチャレンジ性高い難しい技術であった。しかしながら、研究室の現有設備では、上記の項目に関して、すべて実現した。 MEMSデバイスへの組み込みの試みに関して、29年度では行った結果、当初予想範囲内のことである極めて薄いSiN基板の機械丈夫さの問題を見つかった。研究室では、SiN基板の作製が成功したが、作製手順が複雑で、しかも良品率が低い問題点が見つかった。 平成29年度の後期では、これらの問題点を解決するために、計算機シミュレーションを用いて、当初のMEMSモデルを再考案し、シミュレーションを行った。特に報告すべき計算機シミュレーションの結果である。シミュレーションでは、SiN基板の代わりに、安価なフレキシブル基板を用いて、必要な薄膜素子、コイルを再考案したところ、MEMSの電磁変換効率を保つと共に、MEMSの大幅な簡素化が可能することをシミュレーションで明らかにした。フレキシブル基板上の電磁変換MEMSの形成は、本挑戦的研究の実用化に近づく大きな進歩と考えられる。平成30年度では、これらのシミュレーション結果を用いて、MEMSの試作をすでに着手して、現在順調に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はMEMSを用いた自己独立エネルギーハーベスト・ユニットの開発にある。現在検討されている多くのエネルギー・ハーベスト・ユニットは大型・低効率であるが、本MEMSエネルギーハーベスト・ユニットは、小型・高効率であると共に、CPU、ワイヤレス送受信、センサーと同一のチップ上に集積を可能にする。シリコンウェハー上の電磁変換では、これまで優れた軟磁性材料が少なく、高精度・安価な多層微細加工手法が無いため、大面積の磁心のない空芯面内コイルが一般的である。面内コイルの場合は、磁心がないため、電磁変換の効率は非常に低い。本研究で提案する高性能FeCo磁心(透磁率は空気の10000倍以上である、すなわち、同じ面積であれば、電磁変換の効率は空芯コイルの10000倍以上になる。)及び高精度の多層微細加工技術の導入により、微小、汎用で高効率な電磁変換コイルの実現自体が画期的なものである。 平成30年度において、平成29年度の薄膜素子、計算機シミュレーションの結果に基づく、柔らかいフレキシブル磁気MEMSエネルギーハーベスト・ユニットの実現を目指し、①フレキシブル基板上の磁気MEMSの形成手法の確立、②磁気MEMSの電磁変換効率の評価、③MEMSユニットの出力電力のIC駆動方法に関する検討を行う。これによって、生体信号や音、そして運動による様々な振動のエネルギーを高効率で収集可能となるMEMSユニットの開発を行う。
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