研究課題/領域番号 |
17K19082
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
越水 正典 東北大学, 工学研究科, 准教授 (40374962)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | フォトクロミズム / ラジオクロミズム / ラジオフォトルミネッセンス / 異性化 |
研究実績の概要 |
本研究では、有機フォトクロミック材料を用いた、新しい枠組みの放射線イメージング素子の開発を企図して、スピロピラン化合物6-nitro BIPSをはじめ、ジアリールエテン化合物BTTM、アゾベンゼン、およびN-サリチリデンアニリンと、蛍光スイッチング特性を有したジアリールエテン化合物を各々添加したポリマー膜へのX線照射が誘起するフォトクロミック化合物の異性化挙動を調べた。その上で、異性化のメカニズムごとに、得られる感度や線量域を分類した。フォトクロミック材料をPMMAまたはPSに分散した試料を作製し、X線の照射前後での吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定した。 6-nitro BIPSおよびBTTMでは、X線の照射による試料の色の変化を吸収スペクトルの変化から観測することに成功した。6-nitro BIPSでは、X線照射線量の増大につれ、試料が紫色から赤く変色した。これは、大線量の照射によりホストまたは色素が分解したためであると考えられる。BTTM添加試料では、X線のエネルギーにより、BTTMが熱に対して不安定な状態に変化したと考えられる。一方で、アゾベンゼンやN-サリチリデンアニリンでは、6-nitro BIPSやBTTMと比較すると、非常に高い線量でも吸収スペクトル変化はわずかであった。 また、蛍光スイッチング特性を有したジアリールエテン化合物添加試料では、X線の照射により520nmの蛍光強度の増大を観測した。これは、有機物における初めてのラジオフォトルミネッセンス現象の観測であり、X線線量に対する感度も、現状の測定系を用いても0.1~10kGyと他の化合物に比べて高かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
蛍光スイッチング特性を有したジアリールエテン化合物添加試料では、X線の照射により520nmの蛍光強度の増大を観測した。これは、有機物における初めてのラジオフォトルミネッセンス現象の観測であり、X線線量に対する感度も、現状の測定系を用いても0.1~10kGyと他の化合物に比べて高かった。この成果の新規性の高さから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度には、蛍光体の共添加による感度向上を図る。今年度の成果では、X線からフォトクロミック分子への直接のエネルギー付与による異性化を利用していた。来年度には、これに加えて、フォトクロミズムを生じる波長域で蛍光を生じる蛍光体を導入することにより、試料に付与されたエネルギーの一部をシンチレーションとして取り出し、このシンチレーションをフォトクロミック分子が吸収することによる光異性化をも引き起こすことにより、感度の向上を図る。 さらには、より多様な粒子線に対する応答を定量的に評価する。今年度には、重粒子線(高エネルギーのHeおよびC)に対する応答性を評価した。さらには、試料に対して、熱中性子との核反応断面積の大きい6LiをLiClとして添加し、中性子の検出可能性についても評価した。その結果、いずれも、わずかながら変化が見られた。次年度には、この定量的な評価を行う予定である。
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