研究課題
南海トラフ地震発生帯掘削計画(Nantroseize)の一環として、2018年度にプレート境界断層に向けた超深度掘削(Expedition 358)が実施された。今年度は、孔内観測点の直上で停止している期間中(2018年10月10日~2019年3月21日)に実施した海底~上空の同時貫通観測で得られたデータの取りまとめと解析を行った。主要な成果の一つとして、「ちきゅう」船上の櫓に設置した気象観測に関しては、2019年3月10日に潮岬沖を通過した爆弾低気圧を捉えることに成功した。そこで、京都大学防災研究所の附属施設である潮岬風力実験所の陸上気象観測施設と併せて解析を進めている。「ちきゅう」では980hPaの気圧と30m/s以上の風速を記録した。「ちきゅう」から100km程度しか離れていない潮岬では、最低気圧985hPa、最大風速15m/sであり、爆弾低気圧の強風域が非常に狭い範囲に集中していたことが明らかとなった。これらのデータは、1日で急激に発達、移動する爆弾低気圧の変化を海陸で連続的に捉えた貴重なものとなる。もう一つの大きな成果として、海水温の深度分布観測については、遠隔操作型無人探査機(ROV)と水中カメラ(UWTV)にセンサーを取り付けることで、掘削期間中に合計142プロファイルによる水温時系列図の取得に成功した。時間分解能がこれほど高い定点観測は、世界でも例を見ない画期的なものである。気象観測や水温深度観測の他にも、海面高度・可降水量の観測や海洋表面連続観測などを実施し、これらのデータはすべて、公開に向けた手続きを2019年6月に済ませた。
2: おおむね順調に進展している
本研究を通じて、気象・海洋・地震・測地分野が連携して研究する重要性に関する議論を深めるべく、日本地球惑星科学連合大会(JpGU)セッション「海底~海面を貫通する海域観測データの統合解析」を提案すると共に、京都大学防災研究所(DPRI)の一般研究集会「海洋観測データの統合解析に向けた研究集会」を申請したところ、共に採択された。そこで、JpGUで成果を発表したところ、米国地質調査所(USGS)からの講演依頼があり、それを機にUSGSとワシントン大学(UW)との共同研究が始まることとなった。DPRIの一般研究集会では、潮岬風力実験所で観測した研究者および学生と合宿を行い、今後の観測研究の在り方について議論するなど、研究方針が進んだ。
気象センサーに関しては、掘削期前後で方位が大きく変わってしまったことを確認している。これは、EXP358中のジャーリング(抑留時にドリルパイプに対し上向きあるいは下向きに強い衝撃を与え、離脱を試みるオペレーション)が2018年11月18日以降、相当回数行われており、これが原因で少しずつ回転してしまった可能性がある。そこで今後は、補正するか代用データの適用が必要となるため、その検討を行う。海面高度・可降水量の測定は、昨年よりも反射波の受信強度が全般に弱いことが分かった。これは、大型化したインマルサットの影響の可能性がある。そこで今後は、ノイズ除去などの処理や観測環境の見直しなどの検討を行う。海底圧力計のデータについては精査する環境が整ったため、解析を進めると共に、他の船でも海底~上空の貫通観測が実施出来るかどうかを検討し、今後の計画として盛り込む。乱泥流の影響について米国地質調査所およびワシントン大学との共同研究を進め、論文についてまとめると共に、共同で国際セッションを提案し、発表する予定である。
米国地質調査所との共同研究の一環として、研究費の一部を先方から負担して頂いたため、当初の予定より予算が余った。そこで、2020年度に開催予定の国際学会(JpGU-AGU)にて国際セッションを提案し、採択されたため、補助事業期間を1年延長し、学会参加費用および旅費に充てることにした。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件)
Marine Geophysical Research
巻: 40 ページ: 451-451
10.1007/s11001-019-09397-3
巻: 40 ページ: 453-466
10.1007/s11001-019-09380-y
巻: 40 ページ: 513~514
10.1007/s11001-019-09398-2
http://www.eps.sci.kyoto-u.ac.jp/research/advance/09/index.html
http://www.godac.jamstec.go.jp/catalog/data_catalog/metadataDisp/CAP_001