研究課題/領域番号 |
17K19097
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
乙須 拓洋 埼玉大学, 研究機構, 助教 (90564948)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 流速計測 / 蛍光相関分光法 |
研究実績の概要 |
固液界面に代表される様々な界面近傍での物質の流れは、バルクの流れとは大きく異なり界面を形成する各相の物理的,化学的な特性,ならびに各相を形成する分子間の相互作用に大きく依存する.このような界面での流れを理解すべく,本研究では新規光技術を応用することによる界面選択的流速計測法の開発を行うとともに,生体適合性ポリマー表面での流速計測に応用することで,流速を指標とする生体適合性評価法の確立を目的としている.応用する新規光技術は研究代表者が最近開発を行ったエバネッセント光の干渉を利用する蛍光相関分光装置である.エバネッセント光は光が界面で全反射することにより発生する近接場光であり,界面から深さ方向約100 nmほどしか伝搬しないため界面選択的な計測を行う上で非常に有用な照明光となる.さらに本装置では界面の同位置で発生させた2つのエバネッセント光を干渉させることにより生成する干渉縞を照明光として利用する.干渉縞を照明光として利用する最大の利点は超解像分解能で流速計測が行える点にある.これにより界面近傍の分子がバルク側に拡散してしまう前に流速計測を行うことが可能になると予想される. この目的に対して,平成29年度は微小流路セルとエバネッセント光の干渉を利用した蛍光相関分光装置を組み合わせた新規流速計測装置の立ち上げ,ならびに性能評価,解析法の確立を目標とし研究を行ってきた.現在のところ自作の微小流路セルの構築,ならびに蛍光相関分光装置への導入が完了した一方で,計測ならびに性能評価についてはいまだ達成できていない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は微小流路セルとエバネッセント光の干渉を利用した蛍光相関分光装置を組み合わせた新規流速計測装置の立ち上げ,ならびに性能評価,解析法の確立を目標とし研究を行ってきた.はじめに微小流路セルの自作について,市販の微小流路セルは対物レンズと接する面のガラスが流路と一体化したものがほとんどであり,ガラス表面の洗浄や様々なポリマーによる修飾が困難である.ゆえに本研究では対物レンズと接するカバーガラスが交換可能な微小流路セルの作製を試みた.作製した微小流路セルでは薄いシリコン製のシートに流路となる溝を掘り,そのシートをカバーガラスと穴が二つ空いたスライドガラスで挟み込んだ.これにより,シリコン製のシートをはがすことでカバーガラスの着脱が可能となる.その一方で溶液漏れを防ぐためにガラスを強くシリコンシートに押し付けると,薄いカバーガラスが割れてしまうことが何度もあったため,さらなる改良が必要とされた. 次に作成した微小流路セルを蛍光相関分光装置のサンプル台に乗せ,測定を試みた.何度か測定を行ったが,予想したような干渉縞由来の相関信号を得ることができなかった.この点については,今後その要因を考察する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度はまず前年度未解決に終わった課題の克服を試みる.前年度からの課題は大きく分けて二つであり,一つは微小流路セルの改良,もう一つは目的のデータが得られなかった理由を考察し,原因を究明する事である.一つ目の点において,平成30年度はシリコンシートを用いず両面テープを用いた流路作成を行う.シリコンシートはガラスとの接着力が弱いため,溶液漏れを防ぐためには強い負荷をかける必要があった.それに対し,両面テープはガラスへの接着力が強いため,溶液漏れを防ぎつつカバーガラスを割らずに接着することが可能となることが期待される. 次に干渉縞由来の信号が見られなかった点に関して,その要因を検討すべくシミュレーションに基づく考察を行う.現在サンプルとして利用している蛍光粒子を用いた計測では,送液による流れに沿った移動と自由拡散によるバルク方向や横方向への移動の両方が信号に寄与する.この点について,シミュレーションよりどのくらい流速を上げれば流れに沿った移動による信号がデータに反映されるかを検討し,実際に実験を行う上で干渉縞由来の信号が観測されうる流速範囲を見積もる.その後,得られた流速領域で再度計測を試み,この課題の克服を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は流速計測のための送液ポンプを物品費として計上していたが,すでに有していたぺリスタポンプを用いたテスト計測においていくつかの課題が生じたため,送液ポンプの購入を見送った.そのため,平成29年度に予定していた使用額をすべて使用することが出来ず,次年度使用額が発生した.平成30年度は早い段階で問題を解決し,送液ポンプの購入を行うとともに,計測装置への実装を行う.その後,平成30年度の予算使用計画に基づき予算を使用していく.
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