研究課題/領域番号 |
17K19101
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
武藤 俊介 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (20209985)
|
研究分担者 |
大塚 真弘 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (60646529)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
キーワード | 粒界偏析 / 電子顕微鏡 / 蛍光X線分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,当研究グループが独自に開発した電子ビームロッキングによる結晶中不純物の占有サイト分析法(統計的ALCHEMI法)と高度スペクトルイメージング法を組み合わせて,任意の方位を持った結晶粒界に偏析する機能性ドーパントの規則配列構造及びそれに伴う特有の電子状態を抽出し定量解析するロバストな手法開発の試みである. 実際にYを添加して粒界偏析したαアルミナの結晶粒界を跨ぐ領域においてビームロッキング蛍光X線測定を実施したところ,粒界偏析した希土類元素のイオン化チャネリング図形(ICP)は,粒界上部の結晶における陽イオンのICPと同様であることがわかった.すなわち少なくともY原子はAlサイトに関連した場所を粒界で占めていることが示唆された。しかしハードウェアの制限から入射電子ビーム径が1μm程度であるため,粒界特有の電子伝播モードを捉えるために,小さいビーム径で粒界上に入射ビームを固定してロッキングする改良が必要であることが明らかになった. そこで集束レンズの収差に起因するロッキングのピボットポイントが動く問題に対して,ビーム制御プログラムに収差補正機能を付加するためのビーム制御スクリプトを開発した.これによってビーム径を100nm以下にまで小さくした条件で平行照射することが可能となり,かつその条件でのビームロッキング時に殆どピボットポイントが動かないことを確認した. また酸化物セラミックスにイオン価の異なるドーパント添加によって生じる電荷バランスをとるためにわずかに導入される酸素空孔の結晶学的位置を統計的ALCHEMI法と動力学電子非弾性散乱理論の組み合わせによって明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで本手法の大きな制限であった解析可能な領域の大きさについて,装置のソフトウェアコントロールによる収差補正がほぼ完成しつつあるため,結晶粒界のような局在構造や微粒子結晶,微細構造制御材料などへの応用が拓けつつある. また環境保護膜セラミックスの添加元素サイト分析において,これまでイオンの占有サイトは局所的電荷中性条件と置換元素のイオン半径の違いによって決まるとされていた.今回Al添加Y2Ti2O7パイロクロア型結晶の分析では,三価のAlがむしろ四価のTiサイトを優先的に置換していることが明らかになったが,この電荷のアンバランスを相殺する酸素空孔が置換されたTiサイトの最近接酸素サイトに導入されることがこの研究で見いだされた.酸素空孔の位置を定量的に評価したことは恐らく世界でこれまで例の無い結果であり,大型施設の放射光や中性子回折とリートベルト解析では不可能なレベルの分析が本手法で可能である. また今後原子番号の大きい希土類元素の占有テーブルがZ=60までしか用意されていないことが懸案となっている.これについては,特殊な計算コードの適用を考えていたが,最近の機械学習の手法を使って既存のデータベースを使ってデータの外挿によってテーブルの拡張を行うことを計画している.
|
今後の研究の推進方策 |
特に研究計画の大きな変更は無い.今後以下のような計画で研究を進める: 1)ソフトウェア制御によるビームロッキングモードの確立:前年度に引き続き現在開発中の装置制御スクリプトプログラムを早期に完成させる.ほぼ主な機能は確認しており,細部の修正のみである. 2)粒界モードの応用測定:典型的なセラミックスであるSTO(SrTiO3)の双結晶を既に購入している.ここでは界面構造/電子状態を顕わに測定するための電子波の界面伝播モードのビームロッキング測定を試みる.恐らくすべてのランダム粒界では無く特定の面方位の組み合わせにおいて強いモードが予測される. 3)EDX-EELS 同時測定:上記までで得られた構造情報に加え,粒界偏析しているドーパントの化学結合状態の情報をEELS で得る.ここではすでに当グループで開発したEDX-EELS 同時測定システム(ハードウェア)をビームロッキング統計ALCHEMI に適用する.複数の分光データを各入射方位から収集したデータは指標を三つ(角度,分光1 の各チャンネル強度,分光2 の各チャンネル強度)持つテンソル形式を有する.そこで数学におけるテンソル分解の最新テクニックである「構造データ融合法」(Structure Data Fusion: SDF)を取り入れた統計処理によって,添加希土類元素のEDX/EELS チャネリングパターン(広義のICP データの組)から粒界局在スペクトル成分を同時に分離し,EDX-ICP から構造情報,EELS-ICP から粒界に特有の化学結合状態の解析を行う.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の計画では、ソフトウェア制御によってより小さなプローブ径によるビームロッキングを実現することで、実際の粒界情報密度を上げる予定であった。しかしTEM本体とEDX検出器の通信においてビーム制御プログラムが測定途中に停止するトラブルに見舞われたため、実際の粒界試料への適用が若干遅れることとなった。このため、最も理想的な事例としてのセラミックスの結晶方位を制御して接合した双結晶粒界作製分の費用が繰り越しとなっていた。 既にこの問題は年度末に解決し、次年度はすぐに実際の測定に移ることができる。いくつかの方位、及び熱処理温度で粒界構造を制御した双結晶試料の作製をしていく。また次年度9月に開催される国際顕微鏡学会においてこれまでの成果を発表する旅費に支出する予定である。
|