研究課題/領域番号 |
17K19102
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中野 元裕 大阪大学, 理学研究科, 教授 (00212093)
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研究分担者 |
鈴木 晴 大阪大学, 理学研究科, 招へい研究員 (50633559)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 周回イオン常磁性 / フラーレン / 磁気共鳴 / 強磁場 / テラヘルツ分光 / 回転スペクトル |
研究実績の概要 |
リチウムイオン内包フラーレン化合物 [Li@C60](PF6) は NaCl 型のイオン結晶で,室温においては C60 ケージ内の球形領域に閉じ込められたリチウムイオンがほぼ自由な周回運動をしているものと考えられている(DOI: 10.1039/c6cp06949e).正電荷を帯びたリチウムイオンの運動は一種の環電流と解釈できるので,当然それに付随する磁気モーメントが期待される.このような磁性は固体中で検出された例がなく,まったく新しい磁性であることから,われわれは「周回イオン常磁性」と名付けてその性質を調べようとしている.本研究の目的は,強磁場中にこの物質をおいて,「周回イオン常磁性」に起因する磁気共鳴信号を検出することである. 磁気共鳴実験を担当する,国立強磁場実験施設(NHMFL,米国)の Arneil P. Reyes 博士のもとへ約 100 mg の粉末試料を送付し,磁気共鳴実験を試みた.温度 200 K において,7 MHz,10.7 MHz,18 MHz,20 MHzの4つの周波数で磁場を 0 T から 12 T まで掃引してシグナルを探索したが,これらの条件においては検出することができなかった.さらに,温度 208 K において,23 MHz で 20-22 Tの磁場掃引,また 33 MHz で 29-31 T の掃引を行ったが,この条件でもシグナルを発見することができなかった.現在,この原因はシグナルが小さく,低周波数域では分光器の感度が充分でないためであろうと考えており,より高い磁場での実験を計画中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁気共鳴実験を担当する,国立強磁場実験施設(NHMFL,米国)の Arneil P. Reyes 博士のもとへ約 100 mg の粉末試料を送付し,磁気共鳴実験を試みた.温度 200 K において,7 MHz,10.7 MHz,18 MHz,20 MHzの4つの周波数で磁場を 0 T から 12 T まで掃引してシグナルを探索したが,これらの条件においては検出することができなかった.さらに,温度 208 K において,23 MHz で 20-22 Tの磁場掃引,また 33 MHz で 29-31 T の掃引を行ったが,この条件でもシグナルを発見することができなかった.現在,この原因はシグナルが小さく,低周波数域では分光器の感度が充分でないためであろうと考えており,より高い磁場での実験を計画中である. 本研究課題のような試みは極めて挑戦的なものであり,必ずしも成功は約束されていない.その中で,主として低磁場域での予備的実験を着実に遂行しているという点で,研究としては順調に推移していると評価している.
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今後の研究の推進方策 |
磁気共鳴実験を行っている国立強磁場実験施設では,昨夏に実験装置をすべてシャットダウンし,二ヶ月間をかけて建屋の全面改修を行った.そのため,実験装置が再稼働したいま,機器の予約が殺到している状況にあり,なかなかマシンタイムを確保することが困難である.現在,36 T級ハイブリッドマグネット(SCH)のこの夏の課題募集に応募しており,予約がとれれば秋から初冬の時期に実験できる予定である. 本課題の目的はあくまで磁気共鳴信号の発見であるが,今冬の実験においても検出がかなわない場合には目標を変更して,強磁場下でのテラヘルツ分光により,吸収帯の磁場依存性を磁気共鳴実験の代替手段として検討することも視野に入れたい.
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