研究課題/領域番号 |
17K19105
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小堀 康博 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 教授 (00282038)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 光エネルギー変換 / 光合成 / 可視化 / 電荷分離 / 電子スピン分極 |
研究実績の概要 |
ホウレン草から抽出したPSIIチラコイド膜を、連携研究者である三野(名大)から提供を受け、Xバンドマイクロ波によるスピン分極計測を進めた。さらに溶液試料において、極低温条件でのレーザー励起Qバンド時間分解EPR測定を行い、ナノ秒領域の高周波時間分解EPRスペクトルを取得した。電子スピン分極の量子力学的モデルに従い、電荷分離状態の電子的相互作用(J)、スピン双極子間相互作用テンソル(d)、超微細相互作用テンソル(a)、gテンソルを考慮し光電荷分離状態および初期電荷再結合による時間分解EPRスペクトルを再現した。aテンソルに注目すると、電荷分離状態を構成する電子受容体は窒素原子上に大きなスピン密度を持つため芳香環面外方向に大きな主値を持つ。この異方的効果により、外部磁場がこの分子の面外方向を指した場合は量子力学的混合が効率よく起き、三重項電荷再結合収量の増大になる。溶液中無配向試料の電子スピン共鳴スペクトルは、外部磁場の各空間的方向に対して得られる電子スピン分極信号の重ね合わせとして再現される。そこで電子スピン分極強度を各磁場ベクトル方向に分解し、この単位ベクトル終点の集合からなる球面に投影した。dテンソルではラジカル間を結ぶ方向が主軸となり、双極子間相互作用がB0方向に依存する。dテンソルに起因し再結合量子収量の異方性が見られ、磁場強度ではラジカル間を結ぶベクトル方向では最小の収量となる。また電荷分離状態g因子の異方性(gX,gY,gZ)も電荷分離状態の一重項-三重項変換に大きく貢献するため、電子スピン分極は各分子の配向によって大きく変化する。このように三重項量子収量の異方性を画像投影し、分子配向が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回我々が開発した電子スピン分極イメージング法を再結合で生成した三重項励起状態の観測に応用した所、電荷分離状態を構成するフェオフェチンの面内分子配向の詳細まで明らかになった。これは当初の予定になかった進展である。
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今後の研究の推進方策 |
膜配向試料についても同様の手続きでイメージ像を取得できる。EPR測定では外部磁場B0と配向膜基板の法線ベクトルC2が平行、垂直となるよう試料を設置し電荷分離状態を計測する。上記の計測条件では、外部磁場の方向ベクトルは分布をもつため、ガウス関数により磁場方向分布を考慮したイメージング処理を行うことによって、各種の磁気異方性をハイライトさせて表示することができる。同様の解析は励起光偏光方向とB0方向を平行、垂直とするEPR計測に対しても有効であり、この計測も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
電子スピン共鳴分光計に装備されている温度可変装置の修理が平成30年度以降にずれ込んだ。
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