次世代のクリーンエネルギー創出に向け、反応初期過程の仕組みをオングストローム領域の三次元映像化によって明らかにする実験的方法論として時間分解電子スピン共鳴法による計測から分子集合体の初期過程で生成する電荷分離状態の中間体立体構造を、高い空間分解能にて三次元映像として可視化する「時間分解電子スピン分極イメージング法」を開発した。光合成タンパク質であるホウレン草のPSIIにおいて生成する初期電荷分離状態の不対電子軌道を特定し、中間体分子の距離および位置と分子配向を高い空間分解能にて画像化した。電子的相互作用を特徴付け、高効率な光エネルギー変換を引き起こす根源的な分子機構の解明を達成した。PSII初期電荷分離に対する再結合が抑制的であることは、フェオフェチンの末端置換基が生物種によって異なることに起因すると結論した。植物PSIIでは末端置換基としてビニル基 -CH=CH2 を用いているのに対し、紅色細菌の反応中心では、アセチル基 -C(CH3)=Oを有している。この末端アセチル基は電子吸引性が高くカルボニル酸素に不対電子密度が生じるためクロロフィルとの強い相互作用が生まれ、電子が戻る再結合反応を起こしやすい。一方でPSII色素が持つビニル基は電子吸引性がより低いためフェオフェチン末端部位に不対電子密度があまり生じず、電子が戻る通り道を高い壁で阻んだ状態になる。この絶縁性のためクロロフィルとの相互作用(VA = 45 cm-1)は弱く、電荷再結合による電荷の損失を防ぐことが判明した。本研究では、初期電荷分離活性種の同定を行うだけでなく、中間体分子の立体的な配置と軌道の重なりによる電子的相互作用を特定する新しい画像解析によって正確に求めた。磁気共鳴原理をベースとした本技術の開発は太陽電池における効率的電荷生成や新しい光触媒開発への応用など様々な分野での可能性を十分に秘めている。
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