研究課題/領域番号 |
17K19106
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
田中 秀樹 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (80197459)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
キーワード | 包接水和物 / 統計熱力学理論 / 2相共存 / 自由エネルギー |
研究実績の概要 |
疎水性のゲスト分子が水の格子に閉じ込められると、包接水和物が形成され、これは天然ガスを採取また貯蔵する新しい方法を提供する可能性を有する。しかしながら、これらの閉じ込められた分子の量は、異なる熱力学的条件において大きく変化する。二酸化炭素ハイドレート安定性の理解には、その熱力学量の評価が不可欠である。そのために、我々は温度、圧力、そしてゲストのモル分率を独立変数としてハイドレート生成条件を求める基礎原理を見出し、それに基づいたソフト開発をメタン以外の天然ガスや希ガスに拡張した。 本研究では、炭化水素および希ガス包接水和物の相挙動を記述する新しい理論を提唱した。 すなわち、van der Waals and Platteeuw(vdWP)に基づく統計熱力学理論を発展させて、ハイドレートとゲスト相もしくは水の2相共存条件を、自由エネルギー計算から求めることで、完全な相平衡の記述を行い、炭化水素や希ガスに適用した。この結果、炭化水素の安定な組成範囲は極めて多様であり、特にエタンが特徴的であることを発見した。また、水とハイドレートが共存するときのメタンの溶解度の温度依存性は、通常とは逆であることを示し、その原因がメタンの化学ポテンシャルの急激な低下にあることを見出した。 我々が予想して、多数の報道機関等で紹介された負圧下で安定な低密度氷の探索を継続し、分子動力学シミュレーションと自由エネルギー計算により、水の相図の拡張を図った。これにより、負圧下での実際に存在できる氷種を特定することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハイドレートが安定に存在できる条件を、分子間相互作用のみから計算する方法を提案し、それを幾つかの炭化水素や希ガスハイドレートに適用した。これらは、天然に存在する多くのハイドレート種の殆どの相挙動の特徴を代表していると考えられ、ハイドレートの熱力学的安定性と分子間相互作用の関係を確立することができたため。この成果は、ハイドレートの統計力学理論による安定性の最新かつほぼ完成された理論であり、それに基づくメタンやその他の天然ガス、希ガスへの応用から、実験との一致も極めて良好であることが確認されている。 これらは、J. Chem. Phys. Editor's Picとしてfeatured articleに選ばれると同時に AIP Scilightで紹介され、またそれが広く閲覧されていることに基づく。 さらに、我々が予想して、多数の報道機関等で紹介された負圧下で安定な低密度氷の探索を継続し、水の相図の拡張を図ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、高圧高温や低圧低温の極限における包接水和物の生成解離条件を解明して、火星の表面に匹敵する温度と二酸化炭素分圧下において、メタンと二酸化炭素を包接するハイドレートの最安定な構造の探索および平衡にある氷との相対的安定性の評価を行い、メタンの放出の可能性(ハイドレートの解離条件)を探る。特に二酸化炭素に関しては、球形分子近似と線形のより実在に近いモデルにより、広い温度・圧力範囲における生成解離平衡を実験と比較する。 さらに、メタンについて気相として水(塩などの水溶液を含む)と共存する場合と、包接水和物をして共存する場合では、溶解度の温度依存性が逆となることを理論的に確認したが、この現象が他のゲスト種でも起こり得るかどうかを、多様なゲスト分子について確かめる。 特に、これまでに我々が開発してきた方法を、さらに拡張することにより、火星の表面以下の温度から極低温の極限における範囲におけるハイドレート存在の可能性について探索を行うこととする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は計算資源が充実していたが、本年度は大量のデータ保存を含めて、計算機と周辺機器の充実が必要となる見込みであったため。
|