研究実績の概要 |
水素無秩序化を有する結晶性及び非晶質氷のほとんどについて、TIP4P/2005, TIP4P/Ice, SPC/Eポテンシャルモデルを用いた準調和振動近似を用いて分子間振動と体積特性を調べた。ここでは、低圧氷、中圧氷、高圧氷のほか、アモルファス氷を対象とした。 本研究では、分子間振動自由エネルギーを用いて計算した低温領域の熱膨張率と等温圧縮率に着目した。負の熱膨張率は低圧の氷でのみ現れる。熱膨張率の符号は、低周波分子間振動運動のモードグリュナイセンパラメータを通じて解析を行った。中圧氷の低周波領域の振動状態密度のバンド構造は低圧氷とよく似ているが、体積変化に対する応答は逆である。低周波領域での並進運動と回転運動の混合が、低圧氷の負の熱膨張率の出現に重要な役割を果たしていることを明らかにした。 さらに、結晶性及び非晶質の19種類の氷の振動振幅とフォノン局在の程度を、準調和振動近似により調べた。低圧氷では圧縮に伴って振幅が増加するのに対し、中・高圧氷では逆の傾向が見られた。低圧氷中の酸素原子の振幅は、ゼロ点振動の寄与を除けば、水素原子の振幅と変わらない。これは並進振動と回転振動が混在しており、コヒーレントではあるが逆位相の運動をしているためである。振動モードの特徴を調べるために、個々のフォノンモードの原子変位のモーメント比を計算し、結晶氷及びアモルファス氷におけるフォノンの局在化の程度を議論した。その結果、水素秩序氷のフォノンモードは、伝播性や拡散性を持って結晶全体に広がっているのに対し、水素秩序氷のフォノンモードは散逸性モードと呼ばれる振動バンド端に局在していることが明らかになった。
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