研究課題/領域番号 |
17K19107
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
寺嵜 亨 九州大学, 理学研究院, 教授 (60222147)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 液滴 / 水 / 真空 / 蒸発冷却 / ラマン散乱 / 温度測定 |
研究実績の概要 |
実験装置の改良について、真空中での水液滴発生の一層の安定化が前年度からの課題となっており、その改善策の検討を継続して行った。特に、液体試料供給部分の温度の安定化や大気流入の抑制などを試みた。また、前年度に大気中で成功したラマン散乱スペクトル測定を真空中の液滴に対して行うために、光学系の改造を進めたほか、使用していたレーザーの老朽化により故障が頻発したため、大がかりな修繕を行うなど、実験装置の整備を行った。 これら実験装置の改良・整備と並行して、液滴の温度を推定する数値シミュレーションの開発を進め、水液滴の凍結過程を時間を追って観察した前年度の実験結果の解析を行った。特に、比熱や均質凍結核形成速度定数などの熱力学データについて、過冷却された低温域での温度依存性に関して定説がなかったが、本研究でそれらを精査した。50~70ミクロンの水液滴について行った以上の解析の結果、小さい液滴ほど早く凍結すること、いずれも約1 msの時間幅の間に凍結すること、凍結時の液滴の温度は236~233 Kであること、その間に均質凍結核形成速度が約4桁も変化すること、などが明らかとなった。また、液滴表面が優先的に凍結する結果、内部凍結時の体積膨張で液滴が破砕されるなど、凍結時のダイナミクスを捉えた。これらの成果を、物理化学分野の国際的な主要誌Physical Chemistry Chemical Physics(PCCP)誌(英国王立化学会)に発表した。この論文は大きく注目を集め、同誌の2018年Hot Articleに選出された。 また、この論文の執筆過程で、より小さな30ミクロン以下の水液滴について過冷却による到達温度をさらに探究する重要性を認識し、その発生実験の準備を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラマン散乱スペクトルから液体の温度を導出する手法で、真空中で蒸発冷却する液滴の温度を測定する実験を進めている。ラマン散乱スペクトルを温度に対応づけるための参照スペクトルの測定や、大気中の液滴からのスペクトルの取得など、概ね計画通りに進めてきているが、真空中でのラマン散乱測定にやや時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、第一に真空中でのラマン散乱測定に継続して挑む。加えて、従来の50~70ミクロンの水液滴に対して、より低温まで過冷却が進むと考えられる30ミクロン以下の小さな液滴について凍結過程を観察し、水が液体として究極的に到達できる温度の解明に取り組む。さらに、国内外で学会発表を行って、成果を広く世界に発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
真空中でのラマン散乱測定への挑戦を継続するとともに、これまでの成果を学会発表等で広く発信するために次年度に経費を繰り越した。
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